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2017.09.13 Wed

たまさぶろのBAR遊記禁酒法時代はマフィアの秘密蒸留所?
イリノイ州ガリーナ
「ブラーム・ブロス蒸留所」へ

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト


倉庫を改装した蒸留所の正面入口
 やはり、ここも「コーテ社」製の蒸留器だった。

アメリカ・イリノイ州の最北西、ミシシッピ川が流れる州境にほど近いアメリカの古き良き街ガリーナに足を運ぶと、街にたどり着くちょっと手前に「ブラーム・ブラザーズ蒸留所」という小さなディスティラリーがあった。

シカゴからクルマで3時間程度、イリノイ州ガリーナの歴史は意外に古い。1690年代にはフランス人による入植が始まっており、産出された方鉛鉱の採掘で賑わった。1800年代、ミシシッピ川に蒸気船が出入りするようになると街は発展。全米の80%の鉛を産出するに至り、当時イリノイ州ではシカゴと並ぶ都市となった。南北戦争で北軍の将軍として活躍、後に第18代大統領となるユリシーズ・グラントが、この地に居を構えていた事実からも、その隆盛を知ることができる。

しかし、20世紀中頃にはモータリゼーションの波と同時に急速に水運が衰退、鉱山も閉じられ、鉄道も敷設されず終いだったため、街はすっかり寂しくなった。現在、街は人口4000弱の歴史的観光地と復興している。

そんな観光地に2013年12月12日、蒸留所をオープンしたのがマイクとマッツのブラーム兄弟。もともとこの近隣で生まれ育ったものの、マイクはイギリスでコンピュータ・アナリストをしており、スコットランドの蒸留所巡りが趣味だった。マッツはシカゴで薬局屋を営んでいた。アメリカのクラフト・ディスティラリー・ブーム到来により、兄弟そろってガリーナに移り住み、蒸留所を開いた。

その理由は3つ。子供を育てるには最高の環境であること。豊かな穀物が入手しやすいこと。そして、観光地であることだ。何しろ現在、アメリカでは休暇中の蒸留所巡りが大流行りなのだ。

そもそもこの地には1833年から1904年まで、ずばり「ガリーナ蒸留所」が存在した。また1920年から33年まで続いたアメリカの禁酒法時代には、ギャングたちが秘密裏に蒸留所を運営しており、ウイスキー造りの土壌があった。


米マイクロ・ディスティラリーの定番となりつつある、コーテ社製の蒸留器


マイク・ブラーム氏 社のロゴとなっているイラストよりも立派な髭!
観光に力を入れるエリアだけに自治体からの助成金もあり、兄弟は郡が所有する古い倉庫を改装し、蒸留所をスタートさせた。

もちろん、せっかくの機会なので、そのまま蒸留所のツアーに参加した。ひと口に「ディスティラリー・ツアー」と言っても実際に蒸留所を案内してくれるのは、ふだんウイスキー造りに精を出している現場の方が多く(それがオーナーであることも多い)、けっこう口下手。ツアーもしっかり構成されておらず、その内容についてもこちらから逐一質問しないことには、私のような酒飲みが知りたい情報を提供してくれない場合が多い。

しかし、こちらは小さな所帯ながら、ツアー・ガイドがおり、しっかりパッケージ化されていた。集合場所、トーク内容、ウイスキーの知識、そして最後まで解説がストーリー建っており、無駄にあちらこちら訊ねて回る必要がなかった。

ウイスキーの蒸留についてわずかでも知識がある方なら、わかりやすい解説。もちろん、英語ではあるが、これまでのツアーの中では理解が容易でかなりお勧め。観光地に目を付けただけあり、こちらの10ドルで参加できるディスティラリー・ツアーは非常に有意義だった。そうしたビジネスプランの妙もあってか、事業拡大に向け先日、郡から熟成庫増築が認可されたそうだ。


ボトリングほやほやのウイスキーたち

こちらの蒸留器はドイツ製、「コーテ社」のものを使用している。前回、シカゴのコーヴァル蒸留所を紹介した際、なぜアメリカのクラフト蒸留所では、このコーテ社製の使用が人気なのか謎が解けた。

この日は運良く、創業兄弟のひとり、マイクに話を聞くことができた。なぜコーテ社の蒸留器を使っているのか訊ねると、「温度コントロールが容易、メンテナンスも簡単。僕らの考えに合っていたからさ」と答えてくれた。しかし、やはり察するに「コーヴァル蒸留所」が、コーテ社製蒸留器を使用、そのオーナーのロバート・バーネッカー氏が当該蒸留器導入のセミナー、コンサルを行っている影響は大きいだろう。

蒸留器の構成も左にポットスティル、その右に9カラムに分かれたタワー型スティル2本を配し、コーヴァルと同様のレイアウトになっている。通常の製造では500ガロンの水を使用し、糖化に8時間、発酵には3日から5日間かける。これを蒸留し、1回に50から60ガロンの原酒を作り出す。これをミズーリ州から仕入れたナンバー3のチャー(樽の中を焦がす度合い)の新樽で熟成。半年に一度テイスティングをし、3年から5年ほど熟成させる。この夏に初めて、本蒸留所純正のバーボンが生まれたところだ。テイスティングにより素養のある樽は9年以上寝かせ、シングル・バレル・バーボンとしてリリースする予定だという。ボトルはフィラデルフィアから仕入れている。

筆者にとって興味深かったのは、兄弟ともに映画好き。よって蒸留所内のそこかしこに、好きな映画のガジェットが飾られている。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でタイムマシンとして活躍するクルマ「デロリアン」に取り付けられている「次元転移装置(FLUX CAPACITOR)」(タイムマシンの肝)の模型が柱に取り付けられている点など特筆ものだ! この装置により、デロリアンをタイムマシンたらしめているわけだからして!


デロリンに取り付けられていた「FLUX CAPACITOR」


天井に近い梁の部分にビル・マーレイのイラストが
特に好きな俳優は、シカゴ出身のビル・マーレイなんだとか。マーレイは、米TV番組「サタデーナイト・ライブ」で人気を博したコメディアン。映画出演は、オリジナルの「ゴーストバスターズ」、「チャーリーズ・エンジェル」、スカーレット・ヨハンソンとの共演で日本でも大ヒットした「ロスト・イン・トランスレーション」などで知られている。

ツアーの終わりには、蒸留所のジン、ウォッカ、4年熟成のバーボンをテイスティング。それでも満足できない客は、備え付けのバーでカクテルをオーダーすることも可能(カクテル代は別途)。最初から最後まで大満足のツアーだった。ガリーナに足を運ぶような機会に恵まれた方は、「マスト・ビジット・プレース」と思われるので、あらかじめ滞在先リストにいれておくべきだろう。

BLAUM BROS. DISTILLING CO.
9380 W US HWY 20
Galena, IL 61036
1-815-777-1000


試飲の足りないツアー客は、こちらで一杯(別料金)


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材とした新作エッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在』、好評発売中。
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