BAR TIMES

2017.06.12 Mon

たまさぶろのBAR遊記カンボジアの地雷原から生まれた
芋焼酎「ソラークマエ」
苦節9年の後、四国・今治で発売開始

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

愛媛県の株式会社今治デパート は6月4日、今治市内にある「四村(よむら)ショッパーズ」にて、カンボジアの焼酎「ソラークマエ(赤バージョン)」の販売を開始した。現在のところ販売は、同店店頭および通信販売のみとなっている。


これまでの困難について語る高山氏 カクテルのベースにしてみては…とシェイクのジェスチャー
「焼酎販売の何が珍しいのか」と思うなかれ。ソラークマエは、カンボジア・バッタンバン州カムリエン郡タサエン地区オ・アンロック村で生産されるキャッサバ芋を原料とした焼酎。同地区ではカンボジア内戦期に広く埋められた対人地雷の除去作業が現在でも続けられている。日本の陸上自衛隊はPKOの一環として1992年9月以降、この地雷除去作業のために派遣され、その完全撤去に向け平和維持に尽力してきた。

なにしろ地雷の仕掛けられた危険地帯だ。内戦終結後も、土地活用には難があり、劣悪な環境の中で地元村民たちは、キャッサバ芋を植え、隣国タイに廉価で売ってはなんとか生計を立てていた。

元陸上自衛官、600人に及ぶ自衛官の派遣メンバー選定を担当、現地でも地雷除去の指揮をしていた高山良二さんは、除隊後も自ら、認定NPO 法人 国際地雷処理・地域復興支援の会(IMCCD)を設立。カンボジア・バタンバン在住のまま自ら理事長としてこの地雷除去の陣頭指揮を執りしきる。

地質的には肥沃であり、良質なキャッサバ芋が獲れるだけ、「この芋に付加価値をのせ、村民の収益にできないか」と考えたのが、高山さんが焼酎製造に乗り出したきっかけだと語る。地雷撤去の進む村が、経済的に自立発展するため…とは言え、高山さんも元自衛官、通訳のソックミエンさんと村の女性を含めた3人は、まったく酒造りの経験がなく、苦難の連続だったと言う。


店頭販売にあたり、地元テレビの取材を受ける高山さん(右)

愛媛県宇和島市出身の高山さんは、地元・愛媛の名士、桜うづまき酒造篠原成行会長(日本酒造組合中央会)に助言を仰ぎ、焼酎を試製。独特の豊かで味わい深い、美味い酒に仕上がったため、なんとか販売に向け、尽力して来た。この販売に向けても、やはり地元・愛媛県今治市の株式会社ありがとうサービスの井本雅之社長が協力、その傘下である四村ショッパーズから、この日の販売開始にこぎつけた。

この焼酎は、単式直火釡蒸留の上、無濾過で製造。その製造工程について高山さんに問うたところ、何が蒸留酒のスタンダードなのかも把握しないまま、この事業に乗り出したとのこと。原材料には、キャッサバ芋に米麹(黒麹)を使用。赤米を用いて着色している。焼酎だけに、アルコール度数は37%ときりっとした仕上がりに。キャッサバ芋ならではの独特の力強い風味が特徴だ。

高山さんはタサエン地区復興のためにも独自蒸留を模索。しかし、親族も巻き込んだ会社も傾きかけ、3000万円以上の私財を投入、さらに9年を費やし、5月末にやっと日本上陸にこぎつけた。5年前、1200本のボトルをカンボジアから輸入しつつも、日本の酒類規定に合格せず、販売にこぎつけられなかったという苦難もあった。やっと漕ぎつけた船出、この焼酎は高山さんの労苦の結晶である。

「ずっと山の頂きを眺めながら、まったく近づけず(この販売により)、やっと頂上からの景色を目にした」、そんな気分だと語る。

この焼酎の売り上げは、高山さんが理事長および現地代表を務めるIMCCDの一助となり、村の収入源ともなる。現在、ありがとうサービスに勤務するカンボジア人のタン・チェンターさんも「日本人からご支援をいただき、地雷を撤去してくださったおかげで、キャッサバ畑が増えました。そんなキャッサバからソラークマエができました。日本に輸入されることになって、村の人々は何よりもよろこび、心から感謝しています」とコメントを寄せている。

長い内戦に苦しんだ同地区では地雷撤去が現在進行中である。愛飲家としては、カンボジア産の芋焼酎を飲むことで、それがほんの少しでも平和への貢献に役に立つのであれば、喜んで呑もうではないか。

同地区を訪れ、この村の人々にインスパイアされ映画『地雷ときどき僕。』を制作した内田俊介監督は、「かつて地雷原だった場所で造られるこのお酒には、きっとカンボジアの人たちの未来がこもっているのだと思います。地雷をすべて除去するには長い長い年月がかかり、すごくはてしない作業ですが、この村の人たちは、みんな地雷がなくなる未来を願い、信じています」とその感動を語った。


カンボジアからやって来たタン・チェンターさんも嬉しそう

なお去る5日には、同四村ショッパーズにおいて、高山さんが自ら店頭に立ってソラークマエを案内、試飲も行われ、IMCCD の活動も展示されてた。四国の今治市だけに、今後そうそう多くの方がつめかけるということはないだろうが、まだご存知なかった周辺地区の方はぜひ足を運んではいかがだろう。

場所:四村ショッパーズ店内 愛媛県今治市四村286-1
営業時間: 8時00分~21時00分
電話: 0898-22-7877


松山からやってきたバーテンダー氏に焼酎の解説をする高山さん(右)

そもそも「ソラークマエ・赤バージョン」となぜ名乗るか…。実は、すでにホワイト・リカーや度数の高いバージョンも10年近く前から試作済。今回そのバランスの良さから、ついに日本輸入に至ったのが、このバージョン。すでにカンボジアの空港などでは、試飲セットの販売が始まっており、日本に安定供給されるかは、今後の生産状況次第になりそうだ。

カンボジアでの地雷撤去という作業を支援する…そう聞くと、一般人にはあまりにも高いハードル。しかし現地で作られた焼酎を呑んで、その支援になるというだけに愛飲家にとって極めて楽ちんな援助活動だ。

また、ロット数が少ないだけに、幻の酒…に終わらないうちに、一度味わってみる価値はある。

ソラークマエ販売ページ


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材とした新作エッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在』、好評発売中。
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