BAR TIMES

2017.05.19 Fri

たまさぶろのBAR遊記ニューカレドニアBAR探訪4)
死ぬまでに一度は訪れたいイルデパン島と「Longitude 167」

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

「天国にいちばん近い島」ニューカレドニアの魅力は、フランスパンのような形をしたメインアイランド「グランドテール島」だけでは伝わらない。やはり、離島にわたってこそ、その魅力を満喫できる。

その言葉の響きの良さから「ニューカレドニア=天国にいちばん近い島」という表現を便宜上使用しているケースは、私を含め非常に多い。しかし実際、1966年に出版された森村桂の旅行体験記『天国にいちばん近い島』で、彼女の父(作家・豊田三郎)が「神さまと好きなだけ逢える」、「地球の、もう先っぽのところに…神さまのいる天国から、いちばん近い島なんだ」と語った島そのものは、最後に作者がたどり着いた離島・ウベアである。つまり「天国にいちばん近い島」は、ウベアであって、ニューカレドニアそのものではない。しかも、ニューカレドニアまでわたるには船便しかなかった時代のお話。旅行記でも、中心都市ヌメアはニッケル鉱の利権争いの見え隠れする、やや俗物的な街として描かれている。


イルデパン島行きの飛行機
それでもしかし、21世紀のニューカレドニアを訪れれば、旅行記のタイトルが嘘ではなかったと実感できるほどに素晴らしい。残念ながら、ウベアに足を運ぶ機会を得られなかったものの、ここでは離島の魅力を伝えるため、「フランスパン」の南端に浮かぶイルデパン島でのバー体験を贈る。

イルデパン(Ile des Pins)は「松の島」の意。世界一周航海の途中、ニューカレドニアを目にした英海洋探検家ジェームズ・クックは探索の際、自生するナンヨウスギを松と勘違いし、英語で「Isle of Pine」と名付けたのがその始まりとされる。


イルデパン島へのアプローチ 島周辺の環礁が世界遺産 松が茂っているように見える

中心都市ヌメアにある国内線空港マジェンタからプロペラ機に揺られ30分ほどでイルデパンへ。イルデパンのビーチを眺めながら、ビールを飲んでいると、天国にいちばん近いのは、ウベアでもイルデパンでも構わないという至福の気分になることだけは保証する。

イルデパン島内の一般のお店では、アルコールは一切扱っていない。ニューカレドニアは全般的にアルコールに関する規制が厳しく、観光客ももちろん、そうした販売規制から逃れることはできない。機会があれば、こちらのアルコール事情については別項で述べたい。

よって、レストラン、バー選びは慎重にならざるを得ない。バーのクオリティの高さから選択した島内の宿泊先が「ル・メリディアン・イルデパン」。島の北東・オロ湾に浮かぶさらに小さな島に位置するリゾートホテルは、4haのトロピカルガーデンにバンガロースイーツが点在、その多くのバンガローが沖まで見渡せるオーシャンビュー・パテオを設けている。


ホテル名は、伝統的な小型帆船「ピローグ」に表示されている


エキゾチックさを感じさせるBARスペース 向かって両側がカウンター

レストランなどはフロントデスクがある母屋に配置され、その心臓部にバー「ロンギチュード167(Longitude 167 Bar)」がある。「Longitude」は経度の意。「経度167」は、東経167度線として、ニューカレドニアの南端を掠める緯度を指す。

そんな名称を持つバーは、俯瞰するとバーテンダー・スペースが囲まれた長方形をしており、バーカウンターは、その2つの長辺に位置している。それぞれ片側に6席ずつのシートが設けられ、もちろんバーテンダーとの会話を愉しみたければ、こちらを陣取るのが酔い。


この晩、担当してくれた「麗しきバーテンダー」

こうした南国のバーでスタンダードをオーダーしても、それらしさは味わえない…というわけで、メニューに掲載されている「シグニチャー」カクテルから始めることに。

最初に選んだのは「TOUETE(トゥレット)」。「TOUETE(トゥレット)」は、オロ湾からほど近い部族エリアとその部族を指す言葉。ニューカレドニア原産の植物「ニアウリ」のリキュールを使用しているため、おそらくニューカレドニア以外ではお目にかかることができない一杯。ユーカリなどと同じフトモモ科に属するニアウリのオイルは、日本でもアロマ業界で流通しているようで、感染症などに効果があるとされるが、それからリキュールが作られているとは、はてさて。

巧みにリキュールを重ねて行く作り方で、グラスにはカラフルな層ができる。その見目麗しさに、南国気分を満たされる。ホワイトとダークの両ラムをベースに、パインジュース、ニアウリのリキュールにシロップを加えたこのひと品は、非常にユニークではあるが、ニアウリの薬草的な要素が全面に押し出され、カクテルというよりも漢方を処方されたような気分になる。鎮静作用も期待されるだけに、リラックスにはうってつけかもしれない。間違いなく日本のBARではお目にかかることができない一杯なので、やはりこんな南の島でこそトライしておくべきだろう。まぁ、正直一杯頂けば満足ではある。


ニューカレドニアのユニークな素材を活かした「TOUETE(トゥレット)」


日本をイメージした…らしい「WAPAN」
2杯目は、日本をイメージした…らしい「WAPAN」を。ジン、マリブ、マンゴジュースにイチゴのシロップをシェイク。その名とは少々異なり、フルーツの甘味たっぷりのマンゴーを中心にすえたトロピカル・カクテルだ。ビーチサイドでこちらをひと口含めば、汚れた日本の世相などすっかり忘れ去ってしまっても不思議ではない。おそらく、同じレシピを日本のBARで作ってもらったとしても、感動を受けることは難しいだろう。やはり、地ビールと同様、その土地にはその土地にあったカクテルが純然と存在する。

3杯目は、ちょっとした真打、「OUATCHIA(ウォシュタ)」。こちらもホテルが位置するオロ湾と島の中心バオ村の中間地点にある部族エリアと部族名から命名されている。しかし、レシピはそれほどまでに独特さもなく、むしろズブロッカをベースに、ヘイゼルナッツのリキュール・フランジェリコを使用。アップルジュースとライムジュースを加え、ニアウリのはちみつを加えシェイクした仕上がり。ニアウリが加えられているものの、独特の癖も感じることなく、見事に素材が調和している。トロピカルな夜にウォッカのキックが効いた一杯が楽しめた。正直、日本ではなかなかお目にかかれないレシピが多いので、BAR評論家としても非常に愉快だ。


こんな瀟洒なプールバーも用意されている

ホテル内のバーだけに、もちろんカウンターに付かずとも、レストランからもカクテルのオーダーは可能。せっかくなので、バースペースのすぐそばに供えられているカウチやソファ席で楽しむのもお勧め。そして、フロントデスクの背後に設けられたロフト調の「スタディ」でくつろげば、こちらでしかできない至福の時間を過ごすことができる。プールバーとして、ビリヤードをしながらグラスを傾けるのもよし、ゆっくりと本を読みながら、もしくはバックギャモンに興じながら、南国の夜が更けて行くのを味わうのも酔いだろう。


天国にいちばん近い島らしいビーチを眺めながらカクテルを

そしてこちらのバーは、午前中からオープンしているだけに、カクテルを愉しむのに夜を待つ必要はない。プールサイドで南国の太陽の下、トロピカル・ドリンクに身をゆだねる…イルデパンでの南国バー体験は、天国に行く前に「死ぬまでに一度は訪れたい」リストに加えて欲しい。

Longitude 167 Bar
Le Meridien Ile Des Pins
Baie d’Oro, BP 175 Ile des Pins, 98832
New Caledonia
Phone: +687-265000

 


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材とした新作エッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在』、好評発売中。
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