fbpx

バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

2017.05.12 Fri

たまさぶろのBAR遊記ニューカレドニアBAR探訪3)
「世界のBEST BAR 100」に加えたい
「クリーク・バー」

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

ゴールデンウイークに遠出されなかった方は、一足先に夏休みの渡航先選びを始めていることだろう。幾多の候補の中からの旅先選びは、実に悩ましいもの。

だが、世知辛い日本の生活に飽き飽きしたような折には、時差も少なく、9時間弱のフライトでたどり着く「天国にいちばん近い島」ニューカレドニアはお勧めのひとつだ。そして、中心都市ヌメアもフランス領として、欧州テイストに溢れる南国の豊かさを見出すことができるが、やはり、ヌメアにいては知ることのできない世界遺産の環礁をぜひその目でご覧頂きたい。


ニューカレドニア第2の街「ブーライユ」

向かった先は「ブーライユ」。フランスパンのような形をしたニューカレドニアのメイン・アイランド「グランドテール島」の南端付近に中心都市・ヌメアが位置している。一方、ニューカレドニア第2の都市ブーライユは、そこを支点にするとフランスパンを一本の指でバランスよく持ちあげることができそうな島の真ん中、へそのようなあたりにある。ヌメアからクルマに揺られること2時間半。

ニューカレドニアは学術的に地質学上非常に貴重な島々で、地球上に残る土地としてもっとも古いぶるいだとか。先二畳紀の造山運動に起因、三畳紀、白亜紀から始新世における造山運動により形成された。太古から他大陸より孤立、地質学的な特性からも特有の動植物相が広がり、自生する植物の8割が固有種。そんなユニークな緑に囲まれた、なだらかな山々の間を縫い、うねりまくる片側の一車線道路「RT1」を2時間半もかけてやって来た先には、楽園が待っていた。

そこはシェラトン・ニューカレドニア・デヴァ・リゾート&スパ。太古を思わせるような、8000haほどの自然保護地区に立つホテルは、周囲の自然との調和を乱すことなく、13kmも続く白砂のデヴァ・ビーチに面している。ビーチ沖の環礁は、世界遺産だ。


シェラトン・ニューカレドニア・デヴァ・リゾート&スパの幻想的なエントランス
こちらのロビーとそこに設けられたバーが、トロピカル・テイスト匂い立つ秀逸さという噂を聞きつけ、ここまではるばるやって来た。

陽もすっかり落ち切り、原生林に囲まれたようなまさに闇の中、やっとたどり着いた我々を出迎えてくれたのは、日本の合掌造りを思わせる木造屋根の梁とその天井から連なる竹細工の巨大なシャンデリア。伝統的な木造家屋「カーズ」を再現したロッヂを始め、その伝統的な木造建築から生まれたウッディなメインロビーを擁する母屋は、幻想的であり、かつ圧巻のひと言。ここに足を踏み入れただけ、来た甲斐があったと思わせる。

竹細工のシャンデリアが奥へと続いている。その下を母屋の最深部まで進むと姿を現すのが「クリーク・バー」。エントランスからロビーを抜け歩を進めて行くだけで、何の境界線もなくバーが現れる。巨大な天井の下に敷居はなく、気づかぬままバーに踏み入れているという造りになっているので、圧倒的なロビーの雰囲気が連続的にバーにも引き継がれている。バーという業態において、こうした視覚的な仕掛けはひとつの存在意義でもあるが、これほど自然でかつ大がかりな導線はそうそうない。

メインはシャンデリアの真下に供えられたドーナツ型のカウンター。ドーナッツの「穴」にあたる部分が、バーテンダーエリアとなっている円形カウンターが独特だ。多くの観光客は、くつろげるカウチ席やテーブル席に散らばっているが、やはりバーテンダーとの会話ができてこそバーの醍醐味。まずカウンターへ。

席に着くと、南国らしいカナック族と思われる陽気なバーテンダーが英語で話かけて来る。ニューカレドニアはフランス語圏なれど、さすがハイクオリティなリゾートホテルなだけに、英語ですべてまかなえるのは嬉しい。残念なことにヌメアとは異なり、現在のところ日本語会話の可能なスタッフは常駐していないようだ。

都市部のバーなら、まずは様子見のため、「ジントニック」からスタートさせるのだが、南の島でそれは無粋でもある。恒例のピニャコラーダに挑戦。パイナップルとココナッツの風味の豊かさはやはり南の島でしか味わえない。この有無を言わせぬリッチさに満足する。こればかりは日本で味わった経験がない。

リゾートホテルだけに、力のこもったオリジナル・カクテルも用意している。バーのメンバーがそれぞれメニューに自身の名前とともに逸品を記載。その中から、まずライチのリキュールをベースに、キュラソー、グレープフルーツジュース、グレナデンによる「Douceur des iles(ドゥスール・デ・イル))」をオーダー。Ilesは、フランス語で「島」の意。フランス語を解しないながら私なりに意訳すると「優しい島」という名のカクテル。ライチとグレープフルーツの調和は、アルコールがあまり得意ではない女性にも受けそうな、まさに優しい仕上がり。メニューに記載されている通り「アリス」さんの創作カクテル。やはり、女性ならではのひと品なのだろう。

長い時間、クルマに揺られたため、深酒しないよう仕上げに選んだのが「エンジェル」。「天使の分け前」ではないが、やはり酒飲みは天使に弱い。作り手である「アンジェリーク」さんの名前そのものが「天使のような」の意。そんな彼女の手による一杯は、ウォッカ、テキーラ、ジンにレモンとクランベリジュースをシェイクしたキックのある一杯。「トロピカル」という味わいではないが、やはりフィニッシュにはこれぐらいのキックがないと、歯ごたえがない。満足。


アンジェリークさん創作のオリジナル・カクテル「エンジェル」


カウンターのみならず、南国らしい開放的なラウンジも

最後の一杯にひどく満足し、チェイサーをもらうと、バーテンダー氏が「日本から来たんでしょ? 沖縄のラム酒は知ってるか」と声をかけて来る。「よく知らないなぁ」と返すと、目の前に一本のボトルを置く。「OKINAWA RUM COR COR」と記載されている。うむ、まさかニューカレドニアの大自然の中にあるリゾートホテルのバーで、南大東島の「グレースラム社」の一本が出てくるとは…。世界は広い…いや、狭くなっているのか…。この無添加無着色のラムをバーテンダー氏にショットでご馳走してもらい、お開きに。


夜、ラウンジから外に視線を移せば、やはり幻想的な眺め

南国の地で、バーとはやはりカクテルの味のみならず、ホスピタリティや視覚も含め、五感に訴えてこそ、その価値を生むと再認識した。「世界のベストバー100」を記すことがあれば、加えたい一軒だ。こんな雰囲気のバーに毎夜足を運ぶことができたら…と夢心地のまま、都会の灯のまったく見えない、天の川が落ちてきそうな満天の星のもと、自身のロッヂへと戻った。

ああ、日本に帰って来たくなかったなあ…。

余談だが、各出版社のガイドブックに『小説』「天国にいちばん近い島」という記述が散見される。しかし、こちらは「旅行記」もしくは「エッセイ」であって、断じて小説ではない。書籍のフルタイトルは「天国にいちばん近い島‐地球の先っぽにある土人島での物語‐」と副題も21世紀にしては憚られるぐらいだ。各誌編集者さん、引用するのであれば、プロとして目を通すぐらいはしてもらいたい。恥ずかしい限り。

Creek Bar
Sheraton New Caledonia Deva Resort & Spa
Lot 33 Domaine de Deva, Route de Poe, Bourail 98870
New Caledonia
Phone: +687-207000

 


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材とした新作エッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在』、好評発売中。
twitter
https://twitter.com/tamasaburau
facebook
https://www.facebook.com/tamasaburau1
official site たまさぶろの人生遊記
http://www.mag2.com/m/0001604971.html
『麗しきバーテンダーたち』のご購入はこちら

『My Lost New York』のご紹介はこちら

mylostnewyork記事内書籍『My Lost New York』


BarTimesMADO

関連記事はこちら

PAGE TOP