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バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

2020.08.28 Fri

喫煙環境を維持するために喫煙目的店にタバコと酒をともに楽しむ
「大人のバー」を残したい

BAR TIMES リポート

2020年4月に改正健康増進法が施行され、不特定多数が利用する飲食店は原則禁煙となった。喫煙環境について、経営者の決断が迫られるなか、西麻布「霞明亭(かみょうてい)」の永原健司オーナーは喫煙目的店化することで喫煙環境を保持する道を取った。その選択に至った理由と、現在の状況をお話しいただくとともに、喫煙目的店化を支援しているドライブコミュニケーションズの中垣祐哉さんに、その取り組みについて聞いた。
取材・文:門賀美央子 写真:干川 修


――今年4月から飲食店では原則として喫煙ができなくなりました。そうしたなか、貴店はタバコの出張販売許可申請をして、喫煙環境を維持することを選ばれました。なぜ、この選択をされたのでしょうか。

永原 僕自身が愛煙家ですし、お客様も喫煙者が多い。そうである以上、全面禁煙にするのは必然的に考えられませんでした。正直に言うと、今後のことを考えるのであれば、一定以上の席数がある、もしくは一見客が多い店舗は、喫煙不可にしたほうがメリットは多いかもしれません。しかし、当店はその真逆で、小規模店かつ常連のお客様が多い。つまり、禁煙にするメリットはないと判断したのです。

――お客様の中に「タバコを吸えるから来る」という方はいらっしゃいますか?

永原 たくさんいらっしゃいますよ。テレビなどで改正健康増進法の話題が盛んに報道されていた時期には、「この店も吸えなくなるの?」と心配する声があがりました。でも、「うちは禁煙にはしません」とお答えしたら、安心されたようで、その後も通い続けてくださっています。また、コロナ禍による自粛期間に、改めて近所の店に目を向けるようになった方々が初めてご来店になり、「あ、ここは吸えるんですね」とそのまま常連になってくださったケースもありました。逆に、どうしてもタバコが嫌だというお客様は、「喫煙目的店」というのをはっきりと打ち出しているおかげで最初から来店されないわけですから、お互い不快になることがありません。棲み分けをするにはちょうどよいと思います。


ベテランのバーテンダーである永原さんの穏やかなトークも、場を和ませる。

――「喫煙者のための店」というのが一つの個性になるわけですね。

永原 タバコを吸いながらお酒を飲みたい人たちは確実にいるけれど、できる店が減っていくなか、当店は喫煙のできる環境を維持することで、お客様のニーズに応えたいと思っています。昔と違い、非喫煙者の選択肢のほうが多くなったわけですから、タバコを吸わない方はそちらに行っていただき、喫煙者には気兼ねなく、のびのびと楽しめる場所を提供したい。それでなくても、喫煙者は肩身が狭い世の中です。せめて、当店では自由に吸っていただきたいんですよ。

中垣 僕は仕事柄、バーの経営者とお話をする機会が多いのですが、喫煙目的店にしたオーナーさんたちからはよく同じような話をうかがいます。

――中垣さんが所属する会社「ドライブコミュニケーションズ」は、喫煙目的店化の条件である、タバコの対面販売をする為の出張販売許可申請をサポートしているそうですね。永原さんもそれを利用されたとか。

永原 ええ。喫煙目的店化の条件を見るかぎり、当店は特に問題はないだろうと思っていたので、当初はタバコ販売許可申請など必要な手続きを自分でしようと思っていましたが、なかなか複雑で。そんな時に、知人のバーのオーナーから「ドライブコミュニケーションズさんに頼めば、財務局への申請手続きから、喫煙目的店のステッカー準備など細かい整備まですべてやってくれるよ」と教えてもらい、話を聞いた結果お任せすることにしました。

中垣 我々は酒類、タバコ、その他成人向け嗜好品等の広告やプロモーションに長年携わっていますが、併せてタバコの販売免許を保有しており、タバコ販売店としての顔も持っています。喫煙環境の減少は、そうした我々のビジネスに直結する死活問題でして、永原さんのようなオーナー様へのサポートは喫煙環境維持のために我々自身のビジネスの一環として取り組んでいます。具体的には、喫煙目的店が順守すべき要件の解説や、タバコの販売許可申請手続きなどですね。

――代行手数料のようなものは発生するのでしょうか。

中垣 我々の事業展開エリアの都合上、東京23区と武蔵野市の店舗様が対象とはなりますが、サポート手数料や関連諸費用は一切いただいておりません。今回の取り組みをきっかけに、今後店舗様には様々な有益なプロモーション企画をご提案していきます。

永原 実際、すべてやってもらえて助かりました。

中垣 永原さんのように横のつながりから当社にお声がけくださる方も多いのですが、インターネットでまずは情報を得たいという方のために、弊社のホームページで情報提供もしています。申請申し込みや各種問い合わせも、そこからできますので、興味を持たれたオーナーさんは、ぜひ一度アクセスしていただければと思います。

株式会社ドライブコミュニケーションズ ホームページ
https://drive-com.jp/consultant

――先ほど永原さんがおっしゃった通り、喫煙者がリラックスしてタバコを楽しめる場所は少なくなる一方です。そんななか、喫煙目的店が存続する意義についてはどう考えておいでですか?

 永原 僕はタバコも文化の一つだと考えています。たとえば、フランスでは食後には「5つのC」が欠かせないというそうです。CのひとつめはCafé(コーヒー)、次にCognac(食後酒)、Chocolat(ショコラ)、Cigar(葉巻)と続き、最後はConversaccion(コンベルサシオン)――会話ですね。つまり、いいディナーの締めくくるための条件にタバコが入っている。そういうことは、これからも大事にしたいと思っています。また、日本でも、江戸時代から喫煙用具は美術工芸品として発達し、それを愛用する人たちが多かったがゆえにどんどん技術が洗練され、高度になっていったという経過があります。そうした品々は今でも骨董品として愛好家が多いし、美術館などの蒐集対象になっています。それほど文化とタバコは切っても切り離せないものなんですよ。

店内のさまざまなところに和洋折衷の設えが施されており、この場ならではの独特な空気感を醸し出している。

――永原さんご自身も愛煙家ということですが。

永原 僕自身は紙タバコもやれば嗅ぎタバコもするし、葉巻やパイプや煙管タバコも嗜んでいます。タバコと名のつくものなら、なんでも吸うんです(笑)。だから、タバコのリラックス効果は誰よりもよく知っているつもりです。以前、1年ぐらいタバコをやめていた時期があったのですが、その時期は何かストレスがたまるようなことがあっても、気持ちを切り替えるのにとても時間がかかったんですね。でも、タバコを吸っていると、その何分かだけでも意識を切り離して、気分転換できる。だから、あんまりチェーンスモーキングはしません。軽いタバコも吸わない。しっかりタバコの味を楽しみ、酒を愉しむ。そんな時間を、タバコと酒を愛する皆さんとともに過ごしたいと思っています。

シガレットケースがついたスキットル、キセル(煙管)、ZIPPOライターの数々など、永原さん愛用の喫煙具が店内に置かれており、ここからタバコ話が盛り上がることも。

――タバコと酒を本当の意味での“嗜好品”として楽しんでいらっしゃるのですね。これこそ大人の楽しみ方、という気がします。最後に、バーテンダーとして、タバコと酒の理想の合わせ方を教えていただけませんか?

永原 やっぱり茶色いお酒に合わせるのがいいですね。普通のタバコだとちょっと柔らかめのウイスキーでもいいかなと思います。一方、葉巻だったら、ある程度熟成年数の長いお酒――熟成の長いウイスキーやブランデー、ラム酒なんかがいい。シガーの香りの余韻の長さに負けないような、余韻の長いお酒が合うんです。でも、一番はその時の気分に合わせて選ぶこと。タバコと酒は、やっぱり自分のフィーリングとペースで楽しむのがいいと思いますよ。

霞明亭(かみょうてい)
東京都港区西麻布1丁目8−12
【日~金曜日】17:30~26:00 【定休】土曜
090-9131-1131
https://nagahara5.wixsite.com/kamyoutei
バーテンダー暦30周年を迎えた永原健司オーナーが「お客様に寄り添うようにお迎えしたい」との思いで西麻布の路地裏に作ったシックなバー。和と洋が自然に混ざり合う落ち着いた雰囲気の中で、季節のフレッシュフルーツを使ったカクテルから珍しい外国のスピリッツまで、幅広く楽しめる。

   

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