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2019.11.25 Mon

フランスが生んだ創意あふれるバーテンダー
レミー・サヴァージュが語る5つの哲学

BAR TIMES 編集部

11月5日〜8日、レミー コアントロー ジャパンは、ロンドンの著名バーテンダー レミー・サヴァージュ氏を招聘し、東京、関西の4店舗にてゲスト・バーテンディングを実施しました。レミー・サヴァージュ氏は、The World’s 50 Best Bars のNo.1に幾度も選ばれ、Tales of the Cocktail のアワードも取得したロンドンのホテル“ザ・ランガム・ロンドン”内のバー「アルティジャン」のヘッドバーテンダーを務めました。BAR TIMES 編集部では、今年170周年を迎えるフランスのプレミアムオレンジリキュール「コアントロー」を使ったオリジナルカクテルをレミー氏に披露いただきながら、バーテンダーとしての自身の思考や想いを5つのテーマにのせてインタビューさせていただきました。(撮影場所/LIQUID FACTORY)


バーテンティングに哲学を用いるようになったきっかけを語るレミー・サヴァージュ氏。


1.自分自身を表現することを常に意識する。

私は子供の頃から物を考えるのが好きでした。自分自身のことやクリエイティブな考え方とはどういうものか、はたまたチェスで勝つにはどうすれば良いか等、とにかく色々考えることが好きな少年だったんです。大学生になるとますます興味が深まり、哲学を勉強して学位を取得しました。学費を稼ぐために家族が経営するアイリッシュパブでアルバイトをしたのが、バーテンダーになったきっかけです。最初からバーテンダーになりたいと思っていたわけではなかったんですが、徐々にお客様をもてなすことや何をしたらお客様が喜ぶのか、そういうことに面白さを感じ、バーテンディングに哲学を用いることを考え始めたんです。

それから本格的にバーテンダーの道を進み、イギリスやアジアでバーコンサルティングを行う傍ら、グローバルなコンペティションにも挑戦し、2014年に「World’s Most Imaginative Bartender(世界で最も創意にあふれるバーテンダー)」を受賞することができました。この時は、とある蒸留所が紙幣用の紙を製造していたという歴史的建造物であったことから、紙を模したオリジナルの材料を使いカクテルをつくりました。バーテンディングにしても、料理にしても既存の材料を揃え、きちんとした工程でつくることはもちろん素晴らしいと思いますが、自分ならどうつくるか、何を伝えれば喜んでもらえるのか、といったように自分自身を表現することを私は常に意識しています。



「完璧な温度は存在すると分かったうえで、完璧に近づくよう努力をする」とカクテルに対する哲学を語る。


2.これが完璧であると分かったうえで努力する。

私はザ・ランガム・ロンドンという5つ星ホテルの中にあるバー「アルティジャン」で働いていました。そこは一晩に何と400杯ものカクテルが出ます。驚きですよね(笑)。1杯に多くの時間をかけられないので、注文を受けたら4分以内でカクテルをつくるというルールがあり、時計をにらみながらどうしたらできるだけ効率よく、かつクオリティの高いものが提供できるか、日々考えていました。クオリティの高いカクテルの条件とは、完璧な温度、完璧な水位、完璧な希釈にあると考えていて、中でも温度は非常に重要です。これはセミナーでよく実践するんですが、2つの2ピースシェーカーにそれぞれ同量のリキュールと氷を入れ、一方は弱い力で、もう一方は強い力で、同時間シェークします。

同じ条件なのに、液体の温度を比較してみると±5°も差があり、液体の実量も10cc前後異なります。日本で主流の3ピースシェーカーでもまた別の数値が出て、どのセミナーで実践してもほぼ同じような結果が得られるんです。つまり、シェーカーの形とシェークの仕方がどれだけ液体に影響するか、このことを多くのバーテンダーはあまり重視していないと思うんです。味わいを一貫させるには、カクテルごとにどんなシェーカーを使い、どんなシェーキングをすればいいか分かってくるはずです。私は、それぞれのカクテルに『完璧な温度は存在する』と考えています。ただ、すべてが完璧じゃなくてはならないというわけではなく、これが完璧であると分かったうえで努力する、それが私のカクテルに対する哲学なのです。



「リトル・レッド・ドア」で実際に使用していた文字のないメニュー。


3.人間は視覚で味わいを想像することができる。

先述の「アルティジャン」の前に、私はパリにある「リトル・レッド・ドア」でヘッドバーテンダーをしていました。ロマネというアーティスティックな芸術家が多く集まるエリアにあって、小さなお店だった分、様々なことを自由にさせてくれるバーでした。そのひとつがメニューです。私はバーという空間の中で、メニューがどのような役割りを果たすのか疑問に思っていました。カクテル名があり、使われている材料が並んでいるだけで、お客様はその文字を読んで本当に味わいを想像できるのだろうか、とね。例えば、パイナップルと一口に言っても、想像するパイナップルの味は人それぞれ違うかもしれません。そこで私たちは知り合いの画家や写真家11人と協力し合い、11種のカクテルをブラインドでテイスティングし、直感で描いた絵や写真だけのメニューをつくったのです。

実際にお客様に見ていただくと、華やかだったり、刺激的だったりと、視覚からの情報で大まかな味わいを想像できることが分かりました。これは1950年代にニューヨークで表現された必要最小限まで省略するスタイル「ミニマリズム」を基にしています。こういったアイデアは私から発信することが多いですが、一人のアイデアですべてが決まるわけではありません。チームがいますから、みんなでコラボして意見を出し合い決めていきます。いつも決まった箱の中に自分たちを留める必要はない、いつもどこかに飛び出してクリエイティブにやっていこうと。嬉しいことに「リトル・レッド・ドア」も「アルティジャン」も、The World’s 50 Best Barsに選ばれたこともありますが、こうした自由でクリエイティブな発想とチーム力があってこそ得られた栄誉なんです。



コアントローをベースにしたレミー氏オリジナルカクテル。左は「COINTREAU & KUKICHA」、右は「COINTREAU NOIR & ZALOTTI BLOSSOM」。


4.カクテルは決してグラスの中だけの液体ではない。

どうすればお客様に完璧なカクテルをお出しできるか、どんなカクテルを欲しいと思っているかを考えた時、やはり会話から様々な要素を見つけます。抽象的な話になってしまいますが、お客様がバーに来て何かを飲まれる時、決してグラスの中の液体だけを求めているわけではないと思うんです。おそらく、全体的な体験を楽しみに来ているのではないか、それはBGMだったり、照明だったり、椅子の座り心地だったり、全体の環境とか雰囲気を求めているんだと思います。カクテルって実は液体だけではなくて、その回りにある150くらいのとにかく色々な要素が取り巻いていると思うんです。例えば、すごくおいしくないピニャコラーダがここにあったとします。もしそれをビーチで飲んだら、そして隣で誰かが素敵なウクレレを弾いていて、目の前に美しい海が広がっていたら、おいしくないピニャコラーダでもおいしく感じてしまかもしれない(笑)。つまり、全体の雰囲気をどれだけお客様に楽しんでいただけるか、ゲストエクスペリエンスが非常に大切だと思っています。

5.コアントローはイノベーティブにも活用できる。

これは私自身も世界のバーテンダーも思っていることですが、コアントローはいわゆる歴史的な材料であり、カクテルの基本という認識があります。1930年代には、オレンジリキュールやトリプルセックという言い方ではなく、コアントローという名前でレシピにのっているほど歴史があります。ですが、クラシックなカクテルだけではなく、もっともっとイノベーティブなカクテルに使うこともできる、そんな魅力を持っているんです。最近の例でいうと、シンガポールでゲスト・バーテンディングをした際、お客様から軽くてリフレッシングで、バランスのとれたカクテルをつくってほしいとオーダーを受けました。その時に使ったのがコアントローと茎茶です。茎茶はタンニン(苦味)がしっかりしていますが、コアントローの甘味と非常に相性がいいんです。強いカクテルに使うこともできるし、軽くて飲みやすいカクテルにも使える、コアントローは多様性のあるリキュールだと思います。私にとってコアントローとは、自分のクリエイティビティを表現するうえでなくてはならないツールのひとつなのです。


Remy Savage(レミー・サヴァージュ)

1990年生まれ。アイルランド人の父とイタリア人の母の間に生まれ、5歳からフランスで育つ。15歳から哲学の世界に目覚め、家族とともにアイリッシュパブで働く傍ら学位も取得。その哲学の概念はカクテル創作にも大きく影響を与えている。その後、自身でイギリスやアジアでバーコンサルティングを行うなど幅広い活動を行いながら、2014年には「世界で最も創意にあふれるバーテンダー (World’s Most Imaginative Bartender)」を受賞。同年、今やパリのスピークイージーのアイコンともいえる「リトル・レッド・ドア」オープニングのヘッドバーテンダーに就任し、World’s 50 Best Bars (W50BB) 2017 で11位を獲得。2017年11月からは “ザ・ランガム・ロンドン”内のバー「アルティジャン」のヘッドバーテンダーを務め、W50BB 2019 にて48位に入賞させた。エレガントで創意に満ちた革新的なカクテルは高く評価されており、ヨーロッパのバーテンディングを担う若き筆頭者として世界中から注目を集めている。


撮影場所:Liquid Factory

東京都渋谷区宇田川町42−12 SALON渋谷 1F
https://www.liquidworks-jpn.com/liquid-factory



[コアントローとは]
1849年、フランスのアンジェにて創業。厳選した「スイートオレンジ」「ビターオレンジ」 の2種類のピール(果皮)を使用した100%ナチュラルなオレンジリキュールです。エッセンシャルオイルの含有量はオレンジリキュールの中で最も高く、一方で甘みは抑えられています。香り高いオレンジのアロマとバランスの良いフレーバーで、発売以来オレンジリキュール(トリプルセック)のベンチマークとして絶大な人気を誇り、世界中のバーテンダーから「バーには必ずあるべきリキュール」と支持されています。


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