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バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

2015.10.15 Thu

麗しきバーテンダーたちBAR Day Cocktail
石井樹々生さん

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

あのひとの手から紡ぎ出される至善のカクテルを、今宵も。疲れた夜、打ちひしがれた日、何かいい事があった時、分厚い扉を開けてバーへ足を踏み入れる。彼女たちはどんな時も変わらぬ美しい笑顔で迎え、それぞれの思いを込めた一杯をこちらへ滑らせてくれる。一口ふくむ、何も言う事は無い――。

幅約70センチのカウンターを隔てて、夜ごと客と向き合う女性バーテンダーたちの半生から、酒に寄り添う思い、職業観、目標まで、本音を引き出し紹介。北海道から九州までのバーでシェイカーを振る女性を紹介する。これは、単なるガイドではない。 「【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR」の著者が贈る女性バーテンダー讃歌である。

この度、書籍『麗しきバーテンダーたち』の6月1日発売を記念し、当該書籍から転載とした。

 


「夏雲(なつぐも)」は、石井樹々生(いしい・ななお)さんが亡き甥をモチーフにして作ったオリジナル・カクテルだ。

甥っ子を思い浮かべると、もくもくと湧き立って元気の良い真っ白な夏雲と重なった。その純白を引き出し、夏らしさを加えるためにトロピカルヨーグルトリキュールを選んだ。彼の優しさをイメージしてバニラフレーバーウォッカを組み合わせた。その意図が体現され、盛夏の雲を想起させるカクテルに仕上がった。ちょうど一周忌にあたる2010年7月のヨコハマカクテルコンペティションに出品した。

横浜・本牧のダーツバーなどに通い、酒の愉しさには気付いていた。バーテンダーは、挑戦してみたい仕事の一つと思い描きながらも、クラブに出勤していた。そんな折、「ずっと続けられる仕事は何か」と自問。年齢的に少し遅いだろうかと躊躇しながらも、ネットで見付けた求人に応募した。関内の女性バーテンダーだけのバーだった。

当初は、修業と呼ぶより、実践あるのみ。ただ、この仕事が楽ではないことを知った。重い仕入れ品を運び、トイレ掃除、立ち仕事、むくみも酷い。イメージとは大きなギャップがあった。それでも客との距離が近く、それまでの飲食業とは全く異なる愉しさを見いだし、自分の世界が広がっていくのを感じた。

10151051石井樹々生さん(撮影:斉藤美春)

勤めていたバーの店長の引退と同時に、自らも辞すことに。あるバーで当の店長と呑んでいると、現オーナーの佐藤健太郎さんを紹介された。本格的な一歩を踏み出すきっかけだった。

佐藤さんは、先のコンペでグランプリに輝いたバーテンダー。あの日、石井さんの姿を見に来た両親は、「格好いい」と泣いたという。これまでの職業の中で、初めて彼女を認めてくれた瞬間だった。

「一日の終わりに、やり切った、自分も愉しかった、と思えるよう心掛けている」と、上を向いて語る姿が凛々しい。

取材の帰り際、「夏雲」を口にすると、ミルキーでありながら、甘酸っぱさで胸の痛くなる……そんな味がした。

BAR DAY Cocktail(バー・デイ・カクテル)
神奈川県横浜市中区常盤町4-52 文乃家ビル4F TEL: 045-633-6308
※『麗しきバーテンダーたち』より転載。最新情報については、店舗に連絡を。


たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York』、2016年1月発売予定。
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