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2018.12.20 Thu

バーテンダー 鹿山 博康×ニッカ チーフブレンダー 佐久間正が語らうカフェスピリッツの魅力「カフェ蒸溜液はなぜ甘いのか
誰にも分からないって神秘的ですね」

BAR TIMES 編集部


世界でも稀少なカフェ式連続式蒸溜機。「カフェスチル」とも呼ばれるこの蒸溜機から生まれる蒸溜液は、原料由来の香りや味わいがしっかりと残る。その味わいのある蒸溜液からつくり出される二つのスピリッツが、カフェジンとカフェウオッカだ。他に類を見ない味わい豊かなカフェスピリッツを使い、スタンダードカクテルをつくるのが国内外から注目を集めるバーテンダー鹿山 博康だ。そして、それを味わうのがニッカウヰスキー チーフブレンダーの佐久間 正。一杯のスタンダードカクテルから広がるカフェスピリッツの魅力について、プロの使い手とプロのつくり手が語り合う。(撮影場所:Bar BenFiddich/東京・西新宿)



「カフェ蒸溜液だけでも原料や蒸溜度数など
実は5〜6種類をつくり分けしています」(佐久間)

佐久間 先ほど鹿山さんが酒質のお話をされましたが、カフェジンやカフェウオッカに使っているカフェ蒸溜液は、元々グレーンウイスキーをつくるためのものなんです。カフェスチルは1962年に竹鶴政孝自らグラスゴーに出向いて導入したもので、すでに50年以上も稼働しています。大変古い機械なので原料の香味が残ってしまいますが、それを貯蔵することでしっかりと伸びのあるグレーンウイスキーができるんです。
鹿 山 なるほど。カフェ蒸溜液にもそれぞれ違いがあるんですか。
佐久間 はい。原料や蒸溜度数、酵母など細かく変えることで、実は何種類もつくり分けをしているんです。今ではつくっていないものを含めると10種類以上ありますが、現在でも5〜6種類はあります。
鹿 山 カフェジンやカフェウオッカに使われているのはどんな種類ですか。

佐久間 貯蔵に向くほどボディの重いものではなく、比較的軽めのものですね。軽いといってもカフェなのでやはり穀物の香りや甘みは残ります。ただ、面白いことに何が作用してカフェ蒸溜液が甘くなるのか誰にも分からないんですよ。科学的にも証明されていないですし。
鹿 山 科学的に証明されていない。
佐久間 ええ。すごく微量な成分なのか、香りからくる甘さなのかよく分かりません。まぁ、おそらくこれじゃないかという物質はありますけど、断言できない。ただ事実としてカフェで蒸溜したスピリッツは甘いというだけです。
鹿 山 何だか神秘的ですね。今、世界で稼働しているカフェスチルってどのくらいあるんですか。
佐久間 たぶんですが、スコットランドにある数カ所の蒸溜所で今もカフェグレーンをつくっていたと思います。
鹿 山 じゃあカフェ蒸溜液を使ったジンやウオッカはとても稀少な存在なんですね。


鹿山 博康(かやま ひろやす)
「Bar BenFiddich」「BAR B&F」のオーナーバーテンダー。カクテルに使用するハーブ等を自ら栽培するほど薬草に関する造詣が深く、ハーブ、スパイスを使ったミクソロジー・カクテルを提供している。「Bar BenFiddich」は、Asia’s 50 Best Bars に2016年から3年連続、The World‘s 50 Best Bars でも2017年、2018年にランクイン。国内外からもっとも注目を集めるバーテンダーの一人。


「常圧と減圧、2つの蒸溜方法で
ボタニカルの特徴を引き出しています」(佐久間)

鹿 山 僕はどちらかといえばカフェジンに興味があるんですが、ニッカは昔から宮城峡蒸溜所でジンをつくっていましたよね。
佐久間 ええそうです、とても古い蒸溜機なんですが今でも使っています。ジュニパーベリーとかコリアンダーなどコアなボタニカルを蒸溜するときに使うんです。それとは別に、ステンレス製の減圧蒸溜機が2基あって、それぞれ山椒とシトラスを減圧蒸溜しています。
鹿 山 減圧もするんですね。
佐久間 減圧の蒸溜機でシトラスのピールを蒸溜することに関して、ニッカでは特許を持っているんです。繊細な味わいのボタニカルは減圧蒸溜の方が特徴を引き出しやすいんです。もちろんですけど、常圧も減圧も浸漬はすべてカフェ蒸溜液を使っています。

宮城峡蒸溜所にあるジュニパーベリーやコリアンダーなど、コアなボタニカルを蒸溜するジンポット


「なぜプレミアムスピリッツをつくったのか
なぜ山椒だったのか、興味がありますね」(鹿山)

鹿 山 なるほど。そもそもなぜカフェジン、カフェウオッカをつくろうと思ったんですか。
佐久間 今から5年くらい前、海外からスーパープレミアムのジンやウオッカが日本に上陸してきました。今ほどのジンブームではなかったですが、あちこちでよく見かけたんです。その中でも人気のあったジンとウオッカをそれぞれ買っ

佐久間 正(さくま ただし)
1982年ニッカウヰスキー株式会社に入社。入社後、北海道工場に配属。以降、欧州事務所長(ロンドン)、本社生産部原料グループリーダー、栃木工場長等を歴任。2012年4月からブレンダー室室長、兼チーフブレンダーを務める。

て飲んでみたところ、ジンにはフレッシュなシトラスを、ウオッカには穀物の甘みを感じたんです。その時 “これ、うちでもできるじゃん”って思ったんですね(笑)。
鹿 山 へえ、面白い。ターゲットとするものがあったんですね。
佐久間 その頃にはすでに減圧蒸溜したシトラスのスピリッツはつくっていましたし、穀物の甘みならカフェ蒸溜液で出せる。
鹿 山 カフェジンの特徴のひとつである山椒を加えた理由はなんですか。
佐久間 プロトタイプをつくった時点で山椒はありませんでした。レモン、グレープフルーツ、シークアーサー、オレンジを使ったシトラスのスピリッツに、ジュニパーベリーのスピリッツを合わせただけで。それから2年半くらい経って実際に製品化しようとなった時に、アサヒビールの研究員たちがいろいろなボタニカルを試していて、その中に山椒があったわけです。使ってみたら“あ、これいいね”って感じで(笑)。
鹿 山 試した結果良かったんですね。
佐久間 確か、鹿山さんのご実家にある菜園にも山椒の木があるとうかがいましたが。
鹿 山 ありますよ。山椒は植えておくと勝手に育つんです(笑)。手間がかからないし、どんどん伸びていく(笑)。
佐久間 カクテルに使ったりするのですか。
鹿 山 ええ。実ももちろんいいですが、春の新芽の時期は葉っぱがやわらかくて、手のひらでポンっと叩いたり、指で軽く揉むとすごく香りがいいんです。カフェジンにとても合いますよ。
佐久間 それはいいですね。次は新芽の季節にぜひお邪魔したいと思います。
鹿 山 お待ちしています。本日はどうもありがとうございました。

※編集の都合上、本文はすべて敬称略としています。



   

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