
NEW2026.06.1 Mon
サントリー ザ・バーテンダーアワード 2025 優勝者 海外研修レポートロンドン、そしてスコットランドへ。
若林将太さんがイギリスで体感した、
バーで伝えるべき一杯の価値
サントリー株式会社[PR]サントリー ザ・バーテンダーアワード 2025で見事優勝を果たした若林将太さん(神奈川・梶が谷/N-BAR)。
副賞として参加したイギリスでの海外研修では、ロンドンのジン蒸溜所や現地のバーを訪れ、初の海外ゲストシフトにも挑戦しました。さらにスコットランドではウイスキー蒸溜所を巡り、多くの学びと出会いに恵まれた旅となりました。
それは単なる知識や技術の習得にとどまらず、“一杯の価値”そのものを見つめ直す時間でもあったといいます。
本記事では、その旅路を辿りながら、若林さんが現地で感じた感動や気づきとともに、それが今後のバーテンディングにどのように生かされていくのかをレポートします。
羽田国際空港を飛び立ち、およそ14時間のフライトを経てたどり着いたのは、イギリスの首都ロンドンの玄関口、ロンドン・ヒースロー空港。出発前は期待と不安が入り混じっていたという若林さん。初めて降り立ったロンドンの街について、こう振り返ります。
初めてのロンドンは、まさに目に映るすべてが文化体験のように感じられました。歴史ある建物や街並みからは伝統を強く感じる一方で、新しい感性や多様性も自然に溶け込んでいて、そのバランスに大きな魅力を感じました。特に印象に残ったのは、人々のバーで過ごす時間の豊かさ。カクテルを楽しみながら、人やバーテンダーとの会話、空間、そしてそこで流れる時間そのものを大切にしている雰囲気があり、バーテンダーとして非常に学びの多い体験でした。
この日はホテルにチェックインした後、SOHOエリアのレストランでディナーを楽しみ、その足で、かねてより訪れてみたいと考えていた『Kwant Mayfair』へ。オープンからわずか2年で「The World’s 50 Best Bars」6位にランクインするなど、世界中から注目を集める同店では、日本のバーやバーテンディング文化に影響を受けたと語るエリック・ロレンツ氏が、オーナーバーテンダーとしてカウンターに立ち、クリエイティブなカクテルを提供しています。
訪れてまず感じたのは、空間全体に漂う洗練された空気感と、ゲストを自然にその世界観へ引き込む没入感でした。印象的だったのはカウンターの作りで、バーテンダーとゲストの距離が通常よりとても近く、メイキングをすぐ真隣で見ることができる点です。サービスそのものが一つの体験として成立しており、空間全体でゲストを楽しませる設計に強く惹かれました。実際に、『Kwant Mayfair』はゲストがバーテンダーの所作や会話を間近で体感できるように設計されているそうで、その魅力を改めて強く実感しました。
さらに、エリック・ロレンツ氏の人柄についてたずねると。
世界のトップシーンで活躍されている方でありながら、とても温かく迎えてくださり、強いホスピタリティを感じました。細部へのこだわりやゲストへの向き合い方からは深い温かさが伝わり、技術や知識はもちろんですが、やはり圧倒的なオーラを感じました。

ロンドン2日目は、クラフトジンを代表する蒸溜所『シップスミス』を訪問。銅製ポットスチルによる伝統的な製法を間近で見学し、丁寧に積み重ねられてきたものづくりの現場に触れる時間となりました。クラシックなスタイルを守りながらも、ロンドンのクラフトジンカルチャーを牽引してきたその歩み。その背景にある哲学や姿勢に触れたことで、ジンというスピリッツの奥深さを改めて実感する機会となりました。
『シップスミス』蒸溜所を訪れて最も印象的だったのは、ものづくりに対する一切の妥協のなさです。伝統的なロンドン・ドライ・ジンのスタイルを大切にしながらも、小ロットで一つひとつ丁寧に仕上げていく姿勢に、クラフトジンの本質を感じました。また、オーナーのジャレッド・ブラウン氏のジンに対する熱い情熱も非常に印象的で、その想いが蒸溜所全体の空気感や一本一本のジンにしっかりと表れているように感じました。そうした人の想いが味わいにまでつながっていることに、大きな魅力を感じました。特に、ボタニカルの香りの立ち方やジュニパーを軸にした味わいの構成は、自分自身のカクテルづくりにも大きな学びとなりました。

さらに、若林さんは、ジャレッド氏から直々に伝授された印象的なカクテルがあったとか。
ジャレッド氏が、スローイングでヴェスパーマティーニをつくられるとうかがったときは、本当に衝撃でした。私も普段の営業でよくお客様におつくりしますが、その発想はなく、とても新鮮に感じました。話だけではなく、実際に蒸溜所内のバーで体験させていただいたのですが、想像以上の仕上がりでした。ドライになるかと思いきや、スローイングによってテクスチャーはより滑らかに、ふくよかな口当たりに仕上がって飲みやすい!びっくりしました(笑)。レモンピールもツイストして香りだけを加え、グラスには入れないという点が印象的で、細やかなこだわりにも刺激を受けました。『シップスミス』の華やかな香りもしっかりと立ち上がり、自分にとって新しいヴェスパーマティーニとの出会いになりました。

東ロンドンの『ワルツ』にて、人生初の海外ゲストシフトに挑戦
陽が落ちると、ロンドンの街にはバーの灯りがともり始め、いよいよ海外初のゲストシフトの時間が迫ってきました。若林さんを迎え入れてくれたのは、2025年4月、日本人ミクソロジスト鳥潟彦人(とりがたげんと)氏が東ロンドンに開業した『ワルツ(Waltz)』です。ここは、“ジャズと自然”をコンセプトとしたバーで、ジャズと自然が調和する空間で、クラシックをベースにした繊細なカクテルを楽しめます。


鳥潟さんをはじめ、現地スタッフの皆さまがとても温かく迎えてくださいました。特に印象的だったのは、『Waltz』スタッフのチームワークの素晴らしさです。スタッフ同士の連携が非常にスムーズで、細かな動きまで息が合っており、そのオペレーションの完成度の高さに強く刺激を受けました。 また、お客様から、バンブーや東京會舘フィズのオーダーをいただいた時は驚きましたが、同時にとても嬉しく感じました。日本のクラシックカクテル文化が海外でも認知され、求められていることを実感できた瞬間でもありました。 ご来店いただいたお客様も非常にフレンドリーで、カクテルそのものだけでなく、会話やその時間を楽しんでくださっていることが伝わり、私がサントリー ザ・バーテンダーアワードでつくったカクテル『鳳鳴(ホウメイ)』はもちろん、自分の作る一杯が海外のゲストにも届いたことは大きな自信につながりました。
海外ゲストシフトを通じて、普段の営業との違いや、若林さん自身の中で意識したことを聞いてみました。
今回の海外ゲストシフトを通じて強く感じたのは、言葉や文化が違っても、バーという空間で人と人がつながる本質は変わらないということです。普段の営業では、自分のお店の空気感やご常連のお客様との関係性の中で一杯をお作りすることが多いですが、海外では初めてお会いするお客様がほとんどで、その場で空気を読み取りながら、限られた時間の中で信頼関係を築いていく力がより求められると感じました。また、カクテルの味わいだけでなく、所作や表情、会話のテンポ、チームとの連携まで含めて、すべてがサービスの一部であることを改めて実感しました。この経験を通して、自分の一杯が国境を越えて届くことへの自信を持てたと同時に、もっと多くの人に自分らしいカクテル体験を届けていきたいという意識がより強くなりました。



3日目は、『ビーフィーター』蒸溜所を訪問。1820年創業以来、レシピを変えずにロンドン市内で蒸溜され続けている伝統的なロンドン・ドライ・ジンです。
『ビーフィーター』蒸溜所を訪れて強く感じたのは、長年変わらないスタイルを守り続けることの価値と、その難しさです。時代とともにトレンドや嗜好は大きく変化していく中で、伝統的なロンドン・ドライ・ジンのスタイルを守り続けることは、単に“変えない”ということではなく、ブランドとしての信念を持ち続けることなのだと感じました。特に、ジュニパーを軸にしたクラシックな味わいが今なお世界中で愛され続けていることに、スタンダードであり続けることの強さを改めて実感しました。流行を追うだけでなく、長く愛される一杯を作るための本質を改めて考えさせられました。

そして、もう一つ感動したのがジントニックの美味しさだったと言います。
蒸溜所内のバーで味わったジントニックで特に印象に残っているのは、シンプルでありながら驚くほど完成度が高かったことです。『ビーフィーター』らしいジュニパーの力強さに、レモンやオレンジの柑橘が美しく重なり、一杯の中で香りの層をしっかりと感じました。ベーシックなカクテルだからこそ、ジンそのものの個性や設計の美しさがダイレクトに伝わってきたのが印象的でした。日本との違いとしては、よりジンの輪郭を際立たせるバランスにあり、トニックに寄せすぎずボタニカルを主役にしている点です。改めて、シンプルだからこそ誤魔化しの効かない一杯だと実感しました。

前日の『ビーフィーター』蒸溜所を見学後、一路スコットランドへ。海外研修最終日となる4日目は、『ザ・グレンリベット』『グレンギリー』『ザ・マッカラン』の蒸溜所を巡り、ウイスキーづくりの現場を体感しました。中でも印象的だったのが、『グレンギリー』。スコットランド最古のウイスキー蒸留所の一つで、その歴史は1797年に遡ります。
『グレンギリー』を訪れて率直に感じたのは、蒸溜所の親しみやすさでした。規模としては決して大きくないからこそ、造り手との距離が近く、ものづくりの温度感をより身近に感じることができました。特に印象に残ったのは、『グレンギリー』らしい特徴としてオイリーな味わいを大切にしていることです。その個性を生み出すために、スワンネックもかなり下向きに設計されていると伺い、味わいの設計が設備の細部にまで反映されていることに強く興味を惹かれました。実際に試飲をさせていただきましたが、やはり全体を通してクリーミーで、非常に心地よい口当たりが印象的でした。蒸溜所で学んだ特徴が、そのまま味わいとしてしっかり感じられたことも、とても印象に残っています。
フロアモルティングの見学を通じて、改めてウイスキーづくりがいかに手間と時間をかけて生まれているかを実感しました。特に印象に残っているのは、実際にモルトに触れた時の、水分を含んだ麦芽のずっしりとした重さです。普段グラスの中で味わっているウイスキーの原点に直接触れられたことで、ものづくりのリアルを肌で感じることができました。何より、実際にその工程に触れさせていただけたことへの感謝の気持ちが強く残っています。一杯の背景には、こうした地道で丁寧な積み重ねがあることを改めて学ぶ機会になりました。


また、『ザ・グレンリベット』は、グレンリベット地区において最古の政府公認蒸溜所であり、蒸溜所と同じ名を冠したウイスキーを自社で生産するブランドとして知られています。
『ザ・グレンリベット』蒸溜所で印象的だったのは、その歴史の重みと、世界中で愛され続ける理由を現地で体感できたことです。蒸溜所に流れる空気から誇りや哲学を感じ、伝統を守りながら高い品質を維持する姿勢にブランドの軸を実感しました。ラム樽やコニャック樽など多様な熟成樽の香りを体験できたことで、味わいの奥行きがどのように生まれるのかを学ぶ機会となりました。
そして最後に訪れたのが、1824年創業の歴史ある『ザ・マッカラン』蒸溜所。スコットランドのスペイサイド地方でつくられるウイスキーで、“シングルモルトのロールスロイス”と称される存在です。シェリー樽熟成にこだわり、リッチで華やかな甘みと、奥行きのある濃厚な味わいが特長です。
『ザ・マッカラン』蒸溜所を訪れて最も印象に残ったのは、圧倒的なスケール感と、ブランドとしての世界観の完成度です。蒸溜所そのものがまるで一つの作品のように設計されており、建築や空間演出、見せ方に至るまで細部へのこだわりを強く感じました。ウイスキーを造る場所であると同時に、ブランドの哲学そのものを体験できる空間だと感じました。特に印象に残ったのは、シェリー樽への徹底したこだわりです。味わいの奥行きや香りの豊かさが、どれほど熟成樽によって支えられているのかを改めて実感し、一杯の背景にある膨大な時間と手間を強く感じました。歴史と革新、そしてラグジュアリーな世界観が見事に融合しており、世界を代表するウイスキーブランドである理由を、現地で深く理解することができました。
さらに、ニューメイクスピリッツのテイスティングでは、クリーミーでカスタードのような味わいに驚きを感じたという。 これらの体験を通じて、ウイスキーの理解は「知識」から「体験」へと変化していきました。
ニューメイクスピリッツを実際に味わえたことは、今回の体験の中でも特に大きな驚きでした。正直、想像していた以上に完成度が高く、本当に美味しかったことが印象に残っています。カスタードのような滑らかさがありながら、熟れた果実を思わせるトロピカルなニュアンスも感じられ、まだ熟成前の段階とは思えないほど豊かな味わいに衝撃を受けました。普段グラスの中で完成されたウイスキーを扱う立場だからこそ、その原点となるニューメイクにここまで個性と魅力が詰まっていることは、大きな発見でした。熟成によって生まれる変化だけでなく、原酒そのもののポテンシャルの高さを改めて実感しました。

気づけば、あっという間に過ぎていった今回の海外研修。ロンドン、そしてスコットランドで重ねた濃密な体験は、若林さんにとってかけがえのない時間となりました。その一つひとつの出会いや学びを通じて、自身の中で明確になったものがあるといいます。
最も印象に残っているのは、どの場所にも“ものづくりへの強い哲学”と“人の想い”がしっかりと息づいていたことです。ロンドンのバー文化、蒸溜所で受け継がれてきた伝統、そしてスコットランドで触れたウイスキーづくりの現場。そのすべてに共通していたのは、単に美味しい一杯を提供するだけではなく、その背景にある歴史や哲学、造り手の情熱までもが味わいにつながっているということでした。
また、自分の中で大きく変化したのは、一杯の価値をより広い視点で捉えるようになったことです。味や技術だけでなく、その一杯が生まれる背景やストーリーまで含めて届けることの大切さを改めて実感しました。今回の経験を通して、流行を追うだけでなく、長く愛される一杯とは何か、その本質を見つめ続けたいという意識がより強くなりました。
ロンドンのバー文化や蒸溜所で触れたものづくりの哲学を、自分自身のバーテンディングにも落とし込み、味わいだけでなく、その背景やストーリーまで届けられる一杯を目指していきたいと思います。今回得た経験を、これからの営業やカクテルづくりにしっかりと活かしていきたいです。
最後に、「サントリー ザ・バーテンダーアワード」に挑戦し、優勝したことで、若林さん自身が変化したことについて聞きました。
バーテンダーとしての視野が更に大きく広がったと感じています。これまで以上に、一杯の味わいだけでなく、その背景にある文化や歴史、人の想いを意識するようになり、自分の中で表現の幅も広がりました。今回いただいた経験を通して、まだ学べること、届けられることがたくさんあると実感しています。これからも、自分らしいバーテンディングを磨きながら、お客様の記憶に残る時間と一杯を届けていきたいと思います。
若林さんがこれから紡いでいく一杯には、今回の旅で得たすべての経験が静かに重なり、より豊かな表現として結実していくことでしょう。
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