fbpx

バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

NEW2025.09.3 Wed

たまさぶろのBAR遊記ウォルドルフ・アストリア大阪
「ザ・マッカラン」特別カクテルフェア開催

たまさぶろ BAR評論家、エッセイスト

至高のシングルモルトが創出する至福の「体験」〜ザ・マッカランがウォルドルフ・アストリア大阪で仕掛けるラグジュアリーな新方程式

ウイスキーの世界で「最高峰」と称されるザ・マッカランは、また「シングルモルトのロールスロイス」との異名を持つ のはご存知の通り。昨年、200周年を迎えた伝統を誇るブランドが、次なる一手として選んだのは、ウイスキーの魅力を静かに語るのみではなく、最高純度で昇華させる「体験」の創出だった。2025年8月27日から9月30日にかけ、オープンしたばかりのウォルドルフ・アストリア大阪で開催される特別カクテルフェアは 、その象徴だろう。

本イベントが示すのは、現代におけるラグジュアリー・ブランドの新方程式。それは、最高の「ウイスキー」に、珠玉の「才能」と至福の「空間」を掛け合わせることで生まれる、唯一無二の価値提供。主演を演じるのはザ・マッカラン、演出は世界が注目するバーテンダー藤井隆 、そして世界屈指の舞台はラグジュアリーホテル、ウォルドルフ・アストリア 。この三位一体のコラボレーションは、単なるカクテルフェアの枠を超え、ブランドが顧客に提供すべき「究極の体験価値」を雄弁に物語る。

世界が認めた才能とのコラボ

今回のフェアで演出を担うは藤井隆。大阪・北新地の隠れ家バー「クラフトルーム」を率いる彼の名は、日本のバーシーンの枠を飛び越え、世界に轟く。バーテンダーの世界大会「WORLD CLASS グローバルファイナル」で準優勝。「クラフトルーム」は「Asia’s 50 Best Bars 2024」で28位にランクイン。輝かしい実績を持つ 。クラフトルームは飲兵衛の名所「大阪駅前第1ビル」に位置する。界隈はもう完全ななにわの飲み屋街。その中に突如「む? ここはニューヨーク」と思わせるわずか10席ほどのBARが潜んでいため、天然のスピークイージーとなっている。

ザ・マッカランが藤井をパートナーに選んだ理由は明白だろう。同ブランドが世紀を跨ぎ守り抜いてきた「品質とクラフトマンシップへの思い入れ」 を、彼もまた具現化しているからだ。彼のカクテルは、単に作り上げられただけではないる。ザ・マッカランが持つ複雑な個性やストーリーを深く理解し、それを新たな形で表現する創造に昇華させている。今回のフェアは、ザ・マッカランという完璧な素材を藤井が指揮を執るライブパフォーマンス。幸い初日8月27日のオープニングイベントでは、藤井がシェイカーを振るう姿を間近に見ることができ、またそこに宿る哲学を味わうことができた。

体験価値をアップグレードする「舞台」

この特別なパフォーマンスの舞台となったのが、ウォルドルフ・アストリア大阪の28階に位置するバー「Canes & Tales」。マンハッタンの隠れ家バーにオマージュを捧げたというその空間は 、洗練された非日常を約束する。ウォルドルフ・アストリアは、ヒルトンが展開する最上級ブランド。唯一無二の体験と優れた食体験をグローバルに提供してきた 。

ラグジュアリー・ブランドにとって、それが消費される「環境」は、そのブランド同様に重要だ。ザ・マッカランと藤井が織りなす一杯は、この上質な空間で味わうことで初めて、その価値が完成を見る。大阪の夜景を見下ろす特別なロケーションで、世界のトップレベルのサービスを受けながら味わう一杯。それは、もはや単なるカクテルではなく、記憶に残る「成功体験」となる。この体験が、ゲストの心を掴み、ブランドへの深いロイヤリティを育む。

「200 Years Young」〜伝統と革新の共存

1824年の創業以来、ザ・マッカランはシェリー樽熟成にこだわり、ウイスキーに自然な色合いと卓越したクオリティを与えてきた 。その200年にわたる歴史は、ブランドにとって最大の資産だ。この200年を記念し、同ブランドは「200 Years Old」ではなく「200 Years Young」のメッセージを抱える 。これは、過去の栄光に安住するのではなく、伝統を尊重しながらも未来を見すえ、常に若々しく革新的であり続けるという強い意志表明となっている。

今回のフェアは、この意思表明を体現した形だ。ザ・マッカランの伝統的な楽しみ方であるストレートやロックだけでなく、カクテルという形でその新たな可能性を提示。しかも、それを担うのが、世界の最前線で活躍する革新的なバーテンダー藤井。伝統の継承と、未来への挑戦。ザ・マッカランは、このイベントを通じ、自らが単なる伝統的ブランドだけにとどまるのではなく、時代と共に進化し続ける生きたラグジュアリーであることを証明しようとしている。

今回、藤井が繰り出す至宝は3つのカクテル。「Oak Highball」は、ザ・マッカランのダブルカスク12年をベースに、エルダーフラワーリキュール、アップルジュース、ウーロン茶コーディアルをソーダでアップ。大粒グレープをガーニッシュ仕立てとしたスターターに相応しい一杯とした。「Blooming Punch」はザ・マッカランのシェリーオーク12年をベースとし、なんとあんこを使用、チェストナッツシロップにKANADEさくらのリキュール、ミルク、ヨーグルト、レモンジュースで仕上げた逸品。つまりは桜餅をカクテルとして体現したカクテルだ。「Rich Nectar」は、やはりシェリーオーク12年を使用し、日本特有の桃を主体に、ほうじ茶、バルサミコ酢などをシェイクでフィニッシュ。ピンクペパーがアクセントとなったフルーティな傑作だ。こうしてレシピを眺めると、マッカランをベースにそんなに作り込んでしまった良いのだろうか……と疑問が頭をもたげて来るが、そこは世界的バーテンダーの腕。どのカクテルも飲み進むと、その奥底には必ず「あ、マッカランだ」という特色が浮かび上がって来る。スコッチも、こうして突き詰めて行けば、カクテルの素材として純粋な輝きを放つものだと理解できる。

最高の「ウイスキー」に、珠玉の「才能」と至福の「空間」の3つの要素が交差する時、そこには単なる足し算には終わらない至高の付加価値が生まれる。ザ・マッカランがしかけた本フェア、ラグジュアリー市場におけるブランドの新体験を示す、優れた戦略と形容できそうだ。

さて、至高のカクテルを楽しみに部屋へ戻るとテーブルの上にチョコレートが置かれていた。これがなんと弊稿コーナー「BAR遊記」のカバー写真、ヘッドショットがプリントされたチョコレート。ラグジュアリー・ホテル、ウォルドルフ・アストリアと「ロールスロイス」マッカランの心配りに感嘆するばかりだった点を付け加えておく。

文・たまさぶろ
BAR評論家、エッセイスト。立教大学文学部英米文学科卒。『週刊宝石』、『FMステーション』など雑誌編集者を経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。帰国後、月刊『PLAYBOY』、『男の隠れ家』などへBARの記事を寄稿。2010年、東京書籍より『【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR』を上梓し、BAR評論家に。これまでに訪れたバーは日本だけで1500軒超。他に女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』、米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York』など。

関連記事はこちら

PAGE TOP