BAR TIMES

2019.03.13 Wed

ニューワールドが醸す気品エラスリスの2016年ヴィンテージ

週刊ホテルレストラン【酒のSP】


チリワインの価値と品質を知らしめた 「ベルリン テイスティング」から15年


南米チリの最高峰ワイナリー「ヴィーニャ エラスリス」(Viña Errazuriz)当主のエデュアルド・チャドウィック氏らによるワインテイスティング「ベルリン テイスティング」が行なわれてから1 月23日で15 周年を迎えた。1976年に行なわれた「パリ テイスティング」に着想を得て実施したブラインドテイスティングで、「チリで世界最高品質のワイン造りができる」というメッセージを発信したのが2004年のことだ。チャドウィック氏は1870年創業の「ヴィーニャ エラスリス」の5代目当主。基幹ブランドの「ヴィニェド チャドウィック 2014」(Viñedo Chadwick)が評論家のジェームス・サックリング氏からチリワインとして初めて100ポイントを獲得したのに続き、「セーニャ 2015」(Seña)も100ポイントを獲得。17年には「Robert Parker’s Wine Advocate Extraordinary Winery Awards」を受賞し、18年にはデカンタ誌のマン・オブ・ザ・イヤーに輝いた。チャドウィック氏が昨秋の来日で2016年ヴィンテージを中心に語ったマスタークラス「Into the Future」をレポートする。


エラスリスの主要ブランド。左から、「ラス・ピサラス シャルドネ」「同ピノ・ノワール」(以上、2017 年)「ドン マキシミアーノ」(以下、2016 年)「セーニャ」「ヴィニェドチャドウィック」とそれぞれのビッグサイズ


過去10年で最も冷涼なシーズン


16年は過去10年の中で最も冷涼なシーズンだったと言われており、それがおのおののワインに酸とエレガントさをもたらしたとチャドウィック氏は総評する。雨を伴う涼しい天候で芽吹きが前年より1週間以上の遅れを見せ、その遅れは開花まで続き、例年よりも成熟を待つ年だった。「セーニャ」や「ドンマキシミアーノ」(Don Maximiano)を造るアコンカグア・ヴァレー、「ヴィニェド チャドウィック」のマイポ・ヴァレーともに、暑さを取り戻した夏の後に再び気温の低い収穫期を迎え、4月中旬の大雨はこの年のチリワインに大きな影響をもたらした。エラスリスは機を見るに敏な行動で9割以上の収穫を済ませており、品質を保つだけでなく繊細でエレガントなワインとしての評価を得たのが16年の特徴だ。


マスタークラスと同日には帝国ホテル 東京「レ セゾン」でプレゼンテーションディナーも開催された。右から ティエリー・ヴォワザンシェフ、チャドウィック氏、愛娘のマギーさん、伊藤靖彦ソムリエ


冷涼さと引き換えに得たフィネス


“頂点” を意味する「ラ・クンブレ」(La Cumbre)は、同社がこの20年ほど取り組んできたシラーによるワイン。チャドウィック氏が1990年代にフランス・ローヌを訪ねた折に投げかけられた「なぜチリにはシラーがないのか」という疑問に自ら解を求めた。品質的にも頂を目指すこのワインのシラーは、エルミタージュと同様に1ha当たり1万本の密度で栽培されている。サックリング氏は「フローラルでスモークしたベーコンやブラックベリーのアロマ。厳格なタンニンの骨格が濃厚さと釣り合い、生き生きとした味わいの印象的なシラー」と評した。

「KAI」は先住民族の言語で“ブドウの樹” を意味する。ボルドーを原産として今日ではチリのシグネチャーたる存在のカルメネールを93%使い、味わいがはっきりと明示されている。エラスリスのテクニカルディレクター、フランシスコ・ベッティング氏は「深く濃い赤紫のきらめき。深いアロマに黒コショウや黒トリュフ、黒鉛とともに杉やアジアのスパイス。紅茶や灰のニュアンスもある。鮮やかな酸はみずみずしく、ビロードのようなタンニンが余韻として続く」とコメントしている。

「ドン・マキシミアーノ」はエラスリスのフラッグシップワインの一つ。チャドウィック氏の父、ドン・ アルフォンソ・チャドウィック・エラスリス氏(故人)へのオマージュワインで、かつてはカベルネ・ソーヴィニヨン100%で造っていた。今日では粘土質土壌の丘陵地で栽培したカルメネールやマルベック、またプティ・ヴェルドやカベルネ・フランをブレンドしている。カシスやブラックチェリー、ローストしたコーヒー、ココアといった香りと味わい。
フレッシュで心地よい酸とバランス感。複雑みのあるシルキーなタンニンに、長い熟成のポテンシャルを感じさせるワインだ。

「セーニャ」は沿岸から40kmほどの内陸部で、16年はカベルネ・ソーヴィニヨン55%にマルベック、プティ・ヴェルド、カルネメール、カベルネ・フランをブレンド。長年にわたりテロワールワインとして進化を遂げてきた。「マルベックが良い役割を果たすようになってきた。収穫が早まることでフレッシュな酸を生かせる。新樽の比率は73%まで下がり、純粋なテロワールや果実味、エレガントさが高まっている。畑そのものからフィネスが表現されているワイン」とチャドウィック氏も太鼓判を押す。

「ヴィニェド チャドウィック」はパリ、ベルリンの両テイスティングの主催者であるスティーブン・スパリュア氏をして「カベルネ・ソーヴィニヨンの世界的な指標として完璧なワイン。ボルドーで例えるなら『セーニャ』がシュヴァルブランでヴィニエド・チャドウィックは左岸のラトゥール」と評すもの。04年のベルリンテイスティングで第1位に評価されてから、評判は高まるばかりだ。マイポ・ヴァレーはサンチアゴから100kmほど南で、畑は標高650~700m のプエンテ・アルトに位置する。16年はカベルネ・ソーヴィニヨン97%に、3%のプティヴェルドをブレンドしている。この年の気候により一層の純粋さ、バランスとフィネスを兼ね備えた。ラズベリー、イチゴ、チェリーの香り、味わいもカシスやベリーのニュアンスにやわらかなタンニンとフレッシュな酸で、チャドウィック氏も「ピノ・ノワールのようなカベルネソーヴィニヨン」と自信を表す。

チリワインは今後、さらにフランスワインを凌駕するエレガントさを持つようになる。チャドウィック氏はもちろん、高品質なワインを造るチリの生産者が一様に口をそろえる言葉だ。ピノ・ノワールの生産を本格化させるワイナリーも追随している。チリワインの次なるベンチマークは、ブルゴーニュか。オールドワールドに匹敵するフィネスとエレガンスをニューワールドが備えたときに、チリワインがもたらすさまざまな影響力にも期待したい。


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週刊ホテルレストラン2019年2月15日号より転載

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