BAR TIMES

2019.01.31 Thu

バーテンダー 岸 久×ニッカ チーフブレンダー 佐久間正が語らうカフェスピリッツの魅力「『酒はいい方になびく』。
カフェはまさにその通りなんですよ」

BAR TIMES 編集部


世界でも稀少なカフェ式連続式蒸溜機。「カフェスチル」とも呼ばれるこの蒸溜機から生まれる蒸溜液は、原料由来の香りや味わいがしっかりと残る。その味わいのある蒸溜液からつくり出される二つのスピリッツが、カフェジンとカフェウオッカだ。他に類を見ない味わい豊かなカフェスピリッツを使い、スタンダードカクテルをつくるのは銀座の名バーテンダー岸 久。そして、それを味わうのがニッカウヰスキー チーフブレンダーの佐久間正。一杯のカクテルから広がるカフェスピリッツの魅力について、プロの使い手とプロのつくり手が語り合う。(撮影場所:スタア・バー・ギンザ/東京・銀座)



「どの銘柄のジンをどう飲みたいのか。
ジンの展望はバーテンダーにかかっている」(岸)

 岸  いらっしゃいませ。
佐久間 こんにちは。本日はよろしくお願いいたします。
 岸  こちらこそ、どうぞおかけください。
佐久間 岸さんとは様々なイベントでご一緒する機会はありますが、こうしてカウンターを挟んでというシチュエーションはあまりないので楽しみにして来ました。
 岸  ありがとうございます。確かにそうですね。
佐久間 今日は岸さんに、日本ジン協会の代表というお立場から、国内外におけるジンの現状など色々なお話をお聞きできればと思っています。今は世界的なジンブームとよく耳にしますが、実際のところはどうなんでしょうか。
 岸  そうですね、ジンに限って言えば、日本だけではなく世界中で急速に増えているという印象はありますよね。世界ではだいぶ飽和状態になっているようですけど、日本では今も焼酎メーカーを中心にジンづくりに非常に大きな興味を示しているのは確かです。熟成がいらない、ボタニカルで差別化や地域性が図れるという点が魅力なんだと思います。

佐久間 なるほど。海外から見たら日本のジンはどのように映るんでしょうか。
 岸  やはり和食に関連したジャパニーズジンのイメージが強くて、緑茶や抹茶、柚子、山椒といった和の素材にどうしても注目が集まりがちです。同じボタニカルでも、日本で採れるジュニパーベリーにはあんまり興味がない。彼らにしてみれば自国にもあるわけですから、自分たちの国にはないものに関心がいくんですね。まぁ、当然って言えば当然ですけど。
佐久間 これだけ多種多様なジンがあれば、バーに来られる日本のお客様もこれまで以上に楽しめるようになったんじゃないですか。
 岸  興味はあるみたいですね、みなさん。でも銘柄を指定して、それをどう飲みたいかリクエストをされる方はまだまだ多くはありません。そういう意味で、ジンの展望というのは提供する側、すなわち私たちバーテンダーの提案にかかっているんだと思います。


岸 久(きし ひさし)
スタア・バーのマスターバーテンダー。銀座の名門老舗バーで修業を積み、1996年にIBA 世界カクテルコンクールで優勝。2000年にスタア・バーを開店。2004年に東京都知事より東京マイスターに認定され、2008年に「現代の名工」をバーテンダーとして初めて受章するほか、2014年に黄綬褒章を受章。現在は一般財団法人 カクテル文化振興会理事長や日本ジン協会代表など多方面で活躍。

「余市蒸溜所はラブストーリーの世界でもある。
そんな物語がジンにもあればもっといい」(岸)

佐久間 そうですか。そのあたりはウイスキーと違うところなんでしょうね。
 岸  お酒はその背景にある歴史や物語に惹かれる部分って大きいじゃないですか。私も余市蒸溜所には何度もお邪魔していますが、私からするとあそこは蒸溜所であるとともに、ラブストーリーの世界でもあるんですよ。竹鶴さんが大正時代にたった一人でスコットランドへウイスキーの勉強をしに行って、それを日本に持ち帰って、リタさんと夢を実現する。目にするもの一つひとつに感動するんですよ。スコットランドもそうで、あの広陵とした風景の中、バグパイプの音色を聞きながら歴史ある蒸溜所をいくつも巡る。何箇所も周ると徐々に感動は薄れてしまいますけど(笑)、それでもしばらくするとまた行きたくなる。そういったように感動できる要素がジンにもあるといいなって思うんです。

佐久間 確かに。そうすればジンの楽しみ方はもっと広がりますよね。
 岸  ただ、現実的には難しいので、日本らしい場所に蒸溜所を建てるとか、その土地でしか採れない素材を使うとか、そういう部分が楽しまれているんだと思います、今は。でもカフェジンの場合は違って、何と言ってもカフェスチルで蒸溜したスピリッツであるということ。あの蒸溜機から生み出されたアルコールの質というものを知ってほしいし、楽しんでもらいたいですね。
佐久間 そう言っていただけると嬉しいですね。
 岸  とにかく、カフェはアフターテイストに尽きると私は思っているんです。特に日本のジンの場合、合わせる副材料によってジンそのものの素材感が押し切られてしまう傾向が多いんです。でもこれは酒質を超えた、蒸溜液そのものが持つ特徴があります。それがどういうことなのか、実際にカクテルをおつくりしてお話ししましょう。
佐久間 ぜひお願いします。


佐久間 正(さくま ただし)
1982年ニッカウヰスキー株式会社に入社。入社後、北海道工場に配属。以降、欧州事務所長(ロンドン)、本社生産部原料グループリーダー、栃木工場長等を歴任。2012年4月からブレンダー室室長、兼チーフブレンダーを務める。


「カフェはアフターテイストに尽きる。
飲んだ後、カフェだなって分かるんですよ」(岸)

 岸  今日は、佐久間さんに『ビーズニーズ』というジンベースのカクテルをご用意しているんです。
佐久間 それはどのようなカクテルなんでしょうか。
 岸  ハチミツとレモンジュースを合わせたカクテルです。どうぞ、まずは召し上がってみてください。
佐久間 うん、おいしい。甘さがあります、それにとろっとしたようなコクが。
 岸  そうなんです。よく知られたカクテルですが、クセのあるハチミツや酸味の強いレモンジュースを使うことから、選ぶジンによって出来上がりの味わいにかなり差が出てくるんです。それこそマティーニのベルモット以上に決定的に風味が変わってくる。それでも私がビーズニーズを選んだのは、カフェジンはハチミツの質を問わないというか、何でも許容できるジンだということを言いたかったからなんです。
佐久間 例えば黒蜜のような濃い色をしたハチミツもありますけど。
 岸  ええ。通常、柑橘やジュニパーの強いジンにそういったハチミツを使うと、独特のエグミが出てしまってビーズニーズにはあまり向かないんです、試したことありますけど。でも、カフェジンの場合、相手の素材をぐーっと吸収して自分のものにしてしまうアルコールの粘性というものを感じます。先ほどアフターテイストに尽きると申し上げましたが、飲んだ後、最終的に“カフェだな”って分かるんですよ。
佐久間 それはすごいことですね。こうしてお聞きすると改めてカフェというものの個性を実感できます。

 岸  僕が昔、教えてもらった印象的な言葉に『酒はいい方になびく』というのがあります。カフェはまさにそうなんですよね。それを証明するために、今度はカフェウオッカを使ってツァリーヌというカクテルをおつくりしましょう。
佐久間 とても興味深いですね。ぜひお願いします。

カフェジンをベースにしたスタンダードカクテル「ビーズニーズ」。

(後編へ続く)※編集の都合上、本文はすべて敬称略としています。


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