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バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

NEW2022.11.24 Thu

世界で最も革新的な「エンピリカル」を
支える男ラース・ウィリアムズ
インタビュー

EMPIRICAL

従来の常識では考えられないことですが、まずはじめにエンピリカルは蒸留所ではありません。
創設者の1人であるラース・ウィリアムズは、コペンハーゲンを拠点に5年前に創設されたこの会社を「フレーバーカンパニー」と呼んでほしいと考えています。これは彼の経歴を知れば納得がいくでしょう。

彼は「エンピリカル」というブランドを立ち上げる前に、ビジネスパートナーであったマーク・エミルハーマンセンと共に世界的に有名なレストランであるNomaに従事していました。そのため「フレーバー」づくりのノウハウをもっています。
しかしレストランでの経験があるからといって、スピリッツづくりが成功するとは限りません。この「食べ物」と「スピリッツ」という二つの媒体のギャップを埋め、『フレーバー』づくりをするだけでなく、『フレーバー』に革命を起こすことが、彼らがNomaに従事していた頃から受けついだ重要な課題なのです。

現在、クラフトスピリッツの分野においては生産が拡大しているにもかかわらず、驚くほどに変革が起こっていません。なぜなら、酒類の棚に並ぶような主なカテゴリーは、生産に関する基本的な定義に準じていなければならないからです。
例えば、ウォッカは中性スピリッツであり、ウィスキーは穀物から醸造され、樽で熟成されなければなりません。そしてテキーラはメキシコで作られ、特定の種類のアガベを使用したものでないとなりません。ジンは植物性の不純物であるジュニパーを使用して作られます。しかし、エンピリカルはこういった既存のカテゴリーには一切興味がありません。エンピリカル独自の常識にとらわれない製造方法は、すべてベースとなる原料を引き立たせるためにあるのです。エンピリカルはスピリッツの未来の形となりえるのか、それは消費者だけが判断することができます。

エンピリカルは消費者に『フレーバー』を楽しんでもらうため、1本ずつ説得力のあるケースを作り上げています。今回は、創設者であるラース・ウィリアムズにこれまでのエンピリカルが歩んできた道のりや、今後の展開について、インタビューに答えていただきました。

フレーバーカンパニーとは

エンピリカルは自らを「フレーバーカンパニー」と表現していますが、その意味と、この言葉が選ばれた理由を教えてください。

私たちは、キッチンでのキャリアを通じて学んだ努力、批判的な視点、料理の革新性、科学的な厳密さを、『フレーバー』づくりに応用し、それらを共有する方法を民主化するという意味で、『フレーバーカンパニー』と呼んでいるのです。『フレーバー』は私たちにとって北極星のようなものであり、それゆえ私たちは、すべての行動を『フレーバー』を軸に決定しています。発酵に最適な原料の選択から、新たなニュアンスの層を作り出すために選んだ酵母、そして紹介するボタニカルまで、私たちはそれぞれの原料のアロマの可能性をゼロから引き出そうと努力しています。『フレーバー』は、私たちのコミュニケーション手段であり、人々とつながり、体験を創造し、場所と時間の感覚を伝え、世界に共通する感覚を共有するための記憶でもあるのです。

感覚記憶を共有するスピリッツ

エンピリカルは、感覚記憶をそのスピリッツに取り込むということをよく話します。それはどういう意味なのでしょうか?

まず、この質問には人間の生理学で答える方法があります。『フレーバー』には、記憶を回想させる特殊な機能、特に感情的な記憶を呼び覚ます機能があります。なぜなら、嗅覚は感情や記憶の生成に関わる大脳辺縁系の一部と直接的に結びついているからです。嗅覚は、視床のゲートを通らずに扁桃体に直接投射する唯一の感覚系であるため、通常の回想プロセスでは再構成されにくい風味の記憶を作り出すという点で特徴的です。他のどの感覚も、感情、連想学習、記憶を処理する脳の領域と、これほどまでにつながりを持っているものはありません。脳はこのように、『フレーバー』と自分の記憶の繋がりを見つけるために、自分の中にある過去の経験の倉庫を調べているのです。
私たちは常に感覚記憶を通して『フレーバー』を体験しています。これは私たちにとって魅力的であり、私たちはこれらの感情や経験を伝えるため、このように個人的な感覚を、いかにして普遍的なものにするか、私たちは常に探求しているのです。

具体的に、エンピリカルのスピリッツにはどんなものがありますか?

例えば私たちの最初のスピリッツ『Easy Tiger』は、私がみたスカンジナビアのその土地や風景の香りを妹に伝えるため、その香りを閉じ込めたいという思いから生まれました。熟したジュニパーと常緑針葉樹であるダグラスファーの香りを通して、数千マイル離れた所にいながらも、妹とつながり、私が体験した現実を共有する方法なのです。
『THE PLUM, I SUPPOSE』は、このような経験を別の角度から、ある意味ではより普遍的なものとして共有しています。プラムの実から作られるマジパンの柔らかく、心地よく、どこか懐かしい味わいは、子供の頃のおやつ、祖母からもらった焼きたてのタルトの香り、温かい抱擁など、これらは全て感情レベルで誰にでも響くものです。それは、誰にでも共通する『プルーストのマドレーヌ』*1なのです。
アユークでは、パシーヤミヘートウガラシという唐辛子を通して、私の記憶の中にあるオアハカの風景とセントラル・デ・アバスト市場の香りを再現しました。
もちろん現地へ行ったことがある人の方が、強くこのオアハカの感覚記憶を呼び覚ますことができるとは思いますが、メキシコやオアハカの観念を呼び起こすという点では、トランスポーター的な性質を持っているように思えます。

*1:フランスの小説家マルセル・プルーストの自伝的小説『失われた時を求めて』に登場するワンシーン。主人公が紅茶に浸したマドレーヌを口にした瞬間、過去の記憶を呼び覚ますことから過去の記憶、回想のキーワードとして使用されている。

エンピリカルでは常に、素材に焦点を置くところから始まるのでしょうか?

そんなことはありません。『Symphony 6』は非常に異なったアプローチの方法をとっています。光と闇、昼と夜が出会い、刹那と永遠が一緒になる瞬間をこの『Symphony 6』では表現したかったのです。『Symphony 6』は、実際に言葉を発することなく物語を語ることができます。夏の夜に恋人と過ごす完璧な時間、すべてが新しくエキサイティングな瞬間、直感的な体験、そんな感覚を呼び覚ます、時間と時間の間の点なのです。
『Symphony 6』は、6つの香り高い葉と、見落とされがちなユニークな素材の本質を引き出しています。マンダリンとレモンの葉は、爽やかで明るい酸味をもたらし、コーヒーの葉の濃い深みとコントラストを成しています。イチジクの葉の緑と土の香りは、ブラックカシスのつぼみが持つ儚げなフローラルノートによって、より一層引き立たせられています。アンブレットシードとベチバーの根が、ダークな層を際立たせ、独特のムスクのような香りを引き立たせています。

「Symphony 6」


革新的なスピリッツをつくるため、常識にとらわれない独自の蒸溜方法

シェフから醸造家への道を選びましたが、高度な料理の経験は、醸造にどのような影響を与えているのでしょうか?

シェフとしての経験は、ゼロから始めること、原料を厳選、調達すること、そしてメキシコやケンタッキー、ウィスコンシンなど世界中の原料の生産者と強い関係を築くことなど、私たちのすべてのアプローチに大きく関わっています。
私たちはゼロから『フレーバー』を作り上げ、全てのステップが『フレーバー』の製造プロセスや抽出において重要になっています。キッチンのレシピと同じように、小さなステップもすべて重要です。もちろん、発酵は糖分をアルコールに変化させるだけでなく、素晴らしい風味のニュアンスを与える素晴らしいツールであることを、私はキッチンでたくさん学びました。この原則は、私たちが行っているすべてのことに当てはめています。
エンピリカルは、自然をガイドとして、季節を追いながら世界中の食材からインスピレーションを求めています。
どんな原料もボタニカルになる可能性があり、それを知るには試してみるしかないのです。私たちも常に試食し、実験を繰り返しながら、すべての工程を進めています。実際、エンピリカルで最も使われている道具はスプーンかもしれません。新しいバッチを作るたびに、常に今日より明日が良くなるように努力しています。

従来のカテゴリーにとらわれず自由な発想のスピリッツは、他のスピリッツとどのような違いがありますか?

カテゴリーにとらわれないことで、ベーススピリッツも購入したものを使用するのではなく、やりたいことをすべて試し、ゼロからスタートすることができます。発酵させたウォッシュ(もろみ)とボタニカルの風味の多面性やニュアンスを最大限に表現するためには、伝統的な蒸留方法を超える方法を探求すべきであることは早い段階から明確でした。そこで私たちは、アルコールの沸点を9℃まで下げ、原料のフレッシュな揮発性香気成分を逃がさない減圧蒸留に着目しました。従来の蒸留と減圧蒸留を比較することは、異なるオレンジの表情を持つマーマレードと生搾りオレンジジュースを比較するようなものです。
また、エンピリカルは蒸留時に平均100回のカットを行います。こうすることでそれぞれのカットが異なる側面を捉え、蒸溜過程で起きる様々な差異をキャッチすることが可能になるのです。
原料を細分化し、微妙なニュアンスを⾒つけ出し、それらを組み合わせて、思い描いた通りの『フレーバー』をつくり出していきます。
ボトリングのためにアルコール度数を変えるときは、単に水で薄めるのではなく、よりニュアンスと複雑な味わいの層を与えるために、自家製のコンブチャを使うこともあります。このように、私たちは常にプロセスのあらゆる常識を検証しなおし、今日よりも明日がより良いものになるように努力しています。


減圧蒸留器(左)、約100回にカットされた蒸留酒(右)
エンピリカルの新しい表現は、どのようなプロセスで生み出されるのでしょうか。
特定の原材料を使うのでしょうか、それとも最初からある風味の特徴を考えて原材料を選ぶのでしょうか?

エンピリカルでは、創造的なプロセスはさまざまな形で行われます。ある素材に惚れ込んで、そのさまざまな『フレーバー』の層を探ったり、ある製造過程にインスピレーションを受けて、それを試してみたり。また、研究プロジェクトに深く没頭することもあり、新しい何かを発見するために無数の道を歩んでいます。
例えば、アクーユは非常に原材料にこだわったスピリッツです。休暇で訪れたオアハカでパシーヤミヘートウガラシという唐辛子に出会い、その香りに魅了された私は、この唐辛子で何かをしなければと思いました。そこで、市場から道路を渡ってスーツケースを2つ買い、35kgのパシーヤミヘートウガラシを購入してコペンハーゲンの蒸溜所に持って帰りました。そこから、唐辛子の『フレーバー』を輝かせる方法を模索した結果、それが『Ayuuk』になりました。エンピリカルでは、インスピレーションはさまざまな形でもたらされます。私たちは、できるだけ多くの知識と知恵を詰め込み、子どものような好奇心を持って創造的なプロセスに取り組んでいます。

オアハカで出会ったパシーヤミヘートウガラシ


スピリッツの未来、今後のエンピリカルについて

エンピリカルのフリーフォームなスピリッツを消費者やバー/飲食業界に伝えるには、どのような課題があるのでしょうか?

これは私たちが定期的に直面している課題です。バーテンダーや飲食業界においては、『フレーバー』が一番大切です。
そういった意味で、彼らは私たちの最高のアンバサダーと言えます。バーテンダーは、どうすれば『フレーバー』をよりおいしい飲み物にできるかを知っています。そして、既成のカテゴリーにとらわれず、新しい『フレーバー』を体験することに好奇心を持って前向きに取り組む人たちです。消費者にとっては、オープンマインドを持ちながら、スピリッツや缶を好きなように楽しめるような選択肢を提供することが大切です。現在フリーフォーム・スピリッツは同じ志を持つ生産者のコミュニティが広がっており、これまでの既存のカテゴリーの概念を破って、美味しいスピリッツを提供し、『フレーバー』の消費の仕方を再定義しつつあります。フリーフォーム・スピリッツの未来は明るいと言えるでしょう。

エンピリカルのスピリッツをクラシックなカクテルに使用する場合、どのような簡単なアレンジが可能でしょうか?

スピリッツによって大きく異なります。ジンがお好きなら、『The Plum、I SUPPOSE』、『Symphony 6』が最適でしょう。『Ayuuk』はオアハカの香りと味を表現しているので、メスカルを『Ayuuk』に置き換えてみてください。『Ayuuk』のマルガリータとオアハカ オールドファッションドは絶品です。最後に、『SOKA』はラム・アグリコールに似た香りを持ち、モヒートやピニャ・コラーダのアレンジに最適です。

エンピリカルの次の目標は何ですか?

『美味しさ』を通じて、人々の『フレーバー』に対する考え方を変えたいと思っています。


引用元:Forbes 「Meet The Man Behind The World’s Most Innovative Distillery」
https://www.forbes.com/sites/bradjaphe/2022/10/17/meet-the-man-behind-the-worlds-most-innovative-distillery/?sh=492ea4f5da6e

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