BAR TIMES

2019.04.16 Tue

「成田 一徹 to the BAR 」in BAR TIMES 第二回
クール〈東京〉

Office Ittetsu & BAR TIMES

バーを愛した切り絵作家の故・成田一徹さんの著作権を管理されている「Office Ittetsu」と荒川英二氏(バーUK)のご協力のもと、成田さんが遺された作品の一部を「成田 一徹 to the BAR 」 in BAR TIMES としてご紹介させていただけることになりました。成田さんが切り描いたバーという世界の魅力に触れてください。


第二回 クール 〈東京〉1993年 現在閉店

「クールの古川さんに会いたくてコリドー街に足を向けた」。93年に著した『一徹の酒場だより』でのクールは、そんな一文で始まる。一徹は、銀座のバー・ホッピングの1軒目に選ぶ事が多かった。必ず、(椅子席ではなく)スタンディングのカウンターに立ち、古川緑郎マスターの柔和な顔を見ながら飲むのが好きだった。ささっと飲んで、エネルギーをもらって次のバーへ向かった。
(神戸新聞総合出版センター「NARITA ITTETSU to the BAR」より転載)


初めて「クール」の扉を開けたのは、二十年前の八月の暑い日だった。三日間の休暇をとって神戸から上京、一晩に五軒のノルマを課した、いささかハードな”東京バー巡礼の旅”だ。初日は軽く五軒をクリアした。翌日は四軒にペースダウン。最終日は疲れが蓄積して足取りも重く、三軒目を出たところで、すでに午後八時を回っていた。十時過ぎの深夜バスしかない。酔眼、汗だく。ようやく見つけたのがバー「クール」。東京最後の夜は、このバーで締めくくろうと決めていた。スタンディングスタイルのカウンターの右側に立つと、目の前に柔和な表情の名バーテンダー、古川緑郎さんがいた。時間はまたたく間に過ぎた。バスの出発時間は目前に迫っている。勘定を問うと、古川さんは優しく、しかしきっぱりとした口調で、「いいから、いいから。それより急がないと間に合いませんよ」と、一見の客をせきたてた。したたかに酩酊した身には、九時間の揺れるバスは地獄だった。しかし、午前七時に大阪に到着したとき、不思議に気分はさわやかだった。暑い日が続いている。古川さんはお元気だろうか。
(朝日新聞社「TO THE BAR 日本のBAR 74選」より抜粋)



月間「清流」より@上田佑勢

成田 一徹 (なりた いってつ)


1949年神戸生まれ。サラリーマン生活のかたわら切り絵に目覚め、88年に上京。切り絵作家として独立した。BARの空間をモチーフにしたモノクロームの切り絵をライフワークとしつつ、新聞、雑誌、書籍を中心に、街の風景や市井に暮らす人々、職人の仕事や生き様など多彩なテーマで作品を発表した。エッセイストとしても、軽妙で味わい深い文書にファンも多く、各地で個展、グループ展を多数開催した。講談社フェーマススクールズ・インストラクターも長くつとめた。2012年10月、脳出血で急逝。

著書に『to the Bar 日本のBAR 74選』 (朝日新聞社)『カウンターの中から』(クリエテ関西)『東京シルエット』(創森社)『The Cigger Story-葉巻をめぐる偉人伝-』 (集英社)『成田一徹の切り絵入門』 (誠文堂新光社)『あの店に会いに行く』(中央公論社)『神戸の残り香』 『新・神戸の残り香』(神戸新聞総合出版センター)『NARITA ITTETSU to the BAR』(神戸新聞総合出版センター)など多数。


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