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2019.02.9 Sat

横山興業 横山哲也氏に聞く「BIRDY.」5年間の軌跡と
カクテルツールの未来

CREATORS' INTERVIEW

2013年11月、異業種からの参入で、画期的なカクテルツールを誕生させた「BIRDY.」(バーディ)。発売以来、多くのバーテンダーに支持されてきた。その後、テーブルウエアやキッチングッズにも参入。国内のバー業界はもちろん海外にも新風を吹き込んだ横山興業の横山哲也さんに、5年間の軌跡とこれからの挑戦について聞いた。

異業種からの参入、そして挫折


「持った瞬間、手になじみ、カクテルの飲み心地を良くする」として、バーテンダーに愛されるBIRDY.のカクテルシェーカー。30年以上も変わっていなかった形状を見直し、研磨の技術で、新しい価値を与えたのが、愛知県豊田市にある横山興業。工場に職人を抱える自動車部品メーカーだ。ここで、BIRDY.のコンセプトを0からつくりあげたのが、ブランドマネージャーの横山哲也氏。

「自社の技術を活かして、職人と新たなものづくりができないかと思い立ったのは、2012年のことでした。目をつけたのが、当社の金属の研磨技術とカクテルシェーカーです。約10ヶ月を経て、ステンレス製で球体フォルムのカクテルシェーカーが完成。手作業で研磨されたカクテルシェーカーは、驚くほどなめらかな味わいのカクテルを生み出しました」(横山氏)

ブランド名は、「BIRDY.」。ゴルフ用語で水準を表す「パー」の一つ上を意味する「Birdie」という言葉にインスパイアされて名づけられた。

「BIRDY.の哲学は、ユーザーの困りごとを解決しながら、新たな価値を提案することです。いま、ちょうどいいというより一歩先をゆくものでありたいと思っています。どんな製品を開発するときも、この考え方がもとになっていますね」と横山氏。しかし、販売後は異業種参入という壁が高く立ちはだかった。

「開発時、“いいものをつくれば売れる”という思いがありましたが、売上げは予想の10分の1。異業種参入なので、販売ルートもありません。しばらくは、ECサイトを中心に販売していましたが、売上げは右肩下がり。事業の撤退も考えるほど追い込まれました」

共同開発者のエリック・ロリンツ氏

チャンスのきっかけは、海外進出


そんな苦しい状況を変えたのが、海外への進出。経済産業省が独自技術をもつ中小企業を支援する「MORE THAN PROJECT」で選ばれ、ドイツで開催される世界最大級のバーの展示会「BAR CONVENT BERLIN」に2014年から2年連続で出展した。

「ドイツの展示会は、海外の知名度アップと共に、もう1つの作用をもたらしました。世界的に知られるイギリスのバーテンダーであるエリック・ロリンツ氏との出会いです。彼には、自分が開発に関わったバーツールを作りたいという夢がありました。一方で、僕は海外に向けて発信力のあるパートナーを探していました。お互いの考えが一致していましたし、何よりも、まっすぐに手を組みたいと言ってくれたことがうれしかった。会って、5分後には握手していました(笑)」

こうしてエリック・ロリンツ氏と共同開発を始めることになったBIRDY.。2014年から現在まで、BIRDY.のバーツールはすべて横山氏とエリック氏の発案によって作られている。海を隔てた2人のやりとりは主にメッセージアプリだ。

「僕かエリックが問題解決できそうな考えが浮かんだら、『こんなアイデアはどう?』と書き込むのが出発点です。絵を描いてアップすることもありますね。それがアイデアとして昇華できて、実現可能であればサンプル作りという具合に進みます。商品開発の原点は、ラインナップありきではなく、問題点ありき。アイデアが追い付いたら開発を進めるのが、僕たちにとっての開発の進め方です」

ドイツの展示会で評判を得て、欧州や東アジアを中心に広がり始めると、逆輸入的に日本でも手に取られるようになってくる。時期を同じくして、エリック氏との共同開発により、バースプーンやストレーナーなど、ラインナップを増やしたことも功を奏し、販売は軌道に乗るようになった。

「BIRDY.のカクテルシェーカーは革命的な商品でしたが、それゆえにやり方を変えなければならない、と購入を躊躇していた方も多かったんです。一方で、バースプーンの使いやすさが評判を呼び、ほかのラインナップも売れて行く循環が生まれました」

その後、順調に売り上げを伸ばしていき、2016年にはタンブラーやデキャンタなどのテーブルウエア、2018年にはキッチンタオルやグラスタオルなどサプライグッズを発売。バーテンダーだけでなく、ソムリエやバリスタにも愛されるブランドになったのは、ご存知のとおりだ。

プロの手になじむ、使い手ファーストの道具


BIRDY.がプロに愛される背景には、もう1つの理由がある。それは、プロの意見を聞き、バーに顔を出すメーカーだということ。実は、エリック・ロリンツ氏と共同開発する以前、カクテルシェーカー誕生の頃から、横山氏は足しげくバーに通い、バーテンダーに意見を求めていた。

「何軒かのバーを訪ねていくと、新しいコンセプトのカクテルシェーカーを作る試みに共感し、協力してくれるバーテンダーの方々がいました。その方々に異なる研磨方法の試作品をミキシングしてもらって、意見を聞きましたね。今も、BIRDY.の開発の原点は、改善ポイントはないかということを絶えず追及すること。そのデータを集めていくと、アイデアとしてジャンプする瞬間がある。そこで初めて開発に着手することになります。BIRDY.はニーズを満たすだけでなく一歩先を行くもの、現場の不満がすべてです」

この言葉から、「プロの道具である限り、使い手ファーストでありたい」という横山氏の思いがうかがえる。実際に、ツールを開発するときに最も大切にしていることはなんなのだろうか。

「手ざわりや使ったときの感覚ですね。例えば、メジャーカップを開発したとき、0.8mmの厚さで試作したんですが、『軽い』と言われました。何人かの日本人バーテンダーの方に指摘され、イギリスのエリックにも時間差で同じことを言われたら、その意見は理にかなっているということ。一人ひとりの意見に一喜一憂するのではなく、さまざまな考え方をもつバーテンダーのデータを集めることで、理にかなった製品に仕上げています」

販売前にも、実際のバーの運用で問題ないかを少なくても1か月以上、試してもらうのだと言う。この妥協なきものづくりも、BIRDY.らしさだ。


“ものからコトへ” 次のBIRDY.は体験がカギ


カクテルシェーカーの販売から昨年末(2018年)で5年。その売上げ数は、全国のバーの数とほぼ同じ1万個に迫る勢いだ。昨年4月から販売されたキッチン・グラスタオルも8か月で、1万枚の売上げを達成。プロだけでなく、一般へも広がりを見せるBIRDY.が今後、目指すべき道はどこなのだろう?

「この2年、一般向けのテーブル・キッチングッズも販売してきました。そこで気づいたのがBIRDY.は、改めてプロフェッショナルのためのブランドだということ。向き合う時間が必要な道具というのを再認識しました。バーテンダーを始めソムリエやバリスタ、そういうプロに向けた、高品質かつアイデアがピリッと効いているというところに戻っていく予定です」

その目玉として、2019年の具体的な展開を聞いたところ、うれしいニュースが聞けた。

「2019年は、カクテルツールの新商品を3つ発売します。現在、開発の真っ最中です。プロが使ってワクワクするようなバーツールブランドとして、ラインナップを増やしていきたいと思います」

市場としては、国内はもちろん、すでに展開されている17ヵ国を中心に、そちらでも販路を広げていきたいという。その先のBIRDY.の未来は、ものづくりを超えて「コトづくり」にシフトして行く。

「これまでの5年間で、ものづくりを進め、ラインナップが揃ってきたところだと思います。次の5年で考えているのが、お店づくり。BIRDY.をコトとして体験できる場をつくっていきたいですね。元々、BIRDY.を構想したときに、家の写真を1枚撮ったとき、いろんな場所にうちの製品が使われている未来を思い浮かべていました。食べて飲んで生活する、そのなかに関係していくものをポートフォリオとして増やしていきたい。それを、飲食店に落とし込み、昼はコーヒー、夜はカクテルやワインを楽しめるような「BIRDY. BAR」ができたらいいですね」

横山氏がものづくりをスタートしたとき、カクテルシェーカーという発想があったのは、『酒が好き』という思いがあったから。BIRDY.でバーテンダーやソムリエ、バリスタをつなげてきた彼の次なる展開には、業界の枠組みを超える、新しい挑戦が待っていそうだ。


横山哲也(よこやま・てつや)
横山興業で商品企画室長として「BIRDY.」を立ち上げ、「BIRDY.」ブランドすべてのアイテムの開発を手がける。


BIRDY. OFFICIAL
http://birdy-j.com/
BIRDY. facebook
https://www.facebook.com/birdyjp/

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