BAR TIMES

2017.03.30 Thu

たまさぶろのBAR遊記バーボンの本場ケンタッキーを巡る
2. MBローランド蒸留所

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

ケンタッキー州ホプキンスヴィルの郊外、テネシー州との境に近い「セントエルモ」でハイウェイを降りると、そこは立派な「サイロ」を持つ広大な農場だった。そこには日本人がイメージする「蒸溜所」らしい影は見当たらない。アメリカで増殖著しい、こうしたマイクロ・ディスティラリーを取材するようになって以来、コンベンショナルな「ウイスキー蒸溜所」という概念は、訪れるたびに崩れ去る一方だ。


現在は事務所やスーベニアショップが入る元アーミッシュの住居

我々一行は、農場らしく、どこに停めても余裕のあるドライブウェイに乗り入れたバンを降り、ドライブウェイの中央部に建てられた赤い屋根、白い壁の瀟洒な一軒家に入る。そこは蒸留所ツアーの申し込みデスクとスーベニアショップを兼ねており、年配のカップルなどがウイスキーや土産物を物色していた。

そこに現れたオーナーのポール・トマスゼウスキーは、まだ30 歳のなったばかりかという若さ。彼のガイドにより一行は、一軒家からまずはケンタッキー州の晴天の下へと連れ出される。ポールは辺りを見渡し、力強い口調で解説を始める。「ご覧になってお分かりになる通り、この土地は元は農場です。しかもアーミッシュの農場でした。アメリカも広いですが、元アーミッシュの農場だった蒸留所は今のところここだけでしょう」と。

先日、足を運んだケーシー・ジョーンズ蒸留所も瀟洒なカフェテリアを備えていたが、こちらにはより観光客が多いのも「元アーミッシュの農場」という点が影響しているのだろう。

「アーミッシュ」と聞いてピンと来ない方も多いかもしれない。アーミッシュは、アメリカのペンシルバニア州やオハイオ州などを中心に居住している敬虔なドイツ系クリスチャンの一派。集団で生活し、未だに電気、ガス、クルマなどを使用せず、アメリカへ移民した当時の昔ながらの農村の暮らしを維持している。


元農場として使用されていたことがわかる高いサイロ

私ぐらいの年齢の方なら、ハリソン・フォード主演映画『目撃者』で、ハリソンが演じる主人公が事件の目撃者であるアーミッシュの男の子を警護するため村にとどまり、『トップガン』でトム・クルーズの恋人役として有名になったケリー・マクギリスが演じるその子の母親と恋に落ちるエピソードを記憶していることだろう。ナイト・シャラマン監督の映画『ヴィレッジ』でも取り上げられているので、銀幕贔屓の方の記憶に残っているかもしれない。

アーミッシュの村では、農薬などをまったく使用しない農産物が名産となっており、その自然食材が市場にて高価で取り引きされ、また家内手工業による工芸品も人気で、それにより生計を立てるケースも多い。アメリカの田舎町を旅し、その村を訪れた日本の観光客も少なからずいるはずだ。

ポールは2009年、そのアーミッシュの農場を買い取り、蒸留所を開いた。アーミッシュがケンタッキー州で農業を営んでいたとは、私にとっては初耳。集団生活を基本とする宗派の中で、単独でケンタッキー州の端に居を構えていたとは、ちょっとした疑問。おそらくセントエルモ周辺には、アーミッシュの村が存在したと考える方が妥当だろう。しかし、今回はその宗教がテーマではないので、ここでは見送る。


ポールとメアリー・ベス夫妻

ポール自身はルイジアナ州の出身。海兵隊に勤務しその後、ケンタッキー州出身の奥さんと知り合い結婚。奥さんの地元に蒸留所を構えた。

ここは「MBローランド蒸留所」。ポールの奥さんの旧姓名「メアリー・ベス・ローランド(Mary-Beth Roland)」をそのまま冠している。

今回の見学は、ドライブウェイの外側に位置するその「スモーク小屋」からスタート。この蒸留所の特徴は、スモークしたコーンを使用している点。コーンはここで9週間にわたってスモークされる。念入りにスモークされたその風味は、顕著にバーボンの仕上がりに反映される。また使用する小麦については、オープン・ファーメンテーション・タンクで発酵。 軍隊出身のポールはオープン前、蒸留所での勤務経験もなく、独学で個性ある作り手を目指しているが、こうした様々な取り組みが、この蒸留所に個性をもたらしている。

続いて「蒸留室」へ。これまで目にして来たマイクロ・ディスティラリーの中では、農場という土地柄のせいか、かなり余裕のあるレイアウト。蒸留器は、米最東北メイン州のトライデント社製2機を使用している。


トライデント社製の蒸留器

樽はカルバン・クーパレッジのホワイト・オークを「#4」という「アリゲーター」チャーにしたものを使用。バーボンは新樽の内側を焦がし、それに蒸留酒を入れ、熟成のために寝かす。その焦がし方の中でも、オーク材の裏側がワニの背中のようにボコボコした状態になる、もっとも焦がし度合いが強いのが「#4」。その形状から、#4の焦がし方を「アリゲーター・チャー」と呼ぶ。

熟成庫は、もともと穀類を貯蔵していた倉庫を使用しているので、こちらもマイクロ・ディスティラリーとしては、かなり余裕がある。これまで目にしたアメリカの蒸留所の中では、ワシントン州ウッディンビル蒸留所がもっとも整備されていたが、こちらは個人経営ながらそれに次ぐ規模を誇る。樽は25ガロンの小型のものと、53ガロンの大型のものに種類を使い分け、1年半から2年の熟成の後に、テイスティングを繰り返し、自身のバーボン・ウイスキーとして世に送り出している。


特徴的なフレーバーをもたらすスモークされたコーンが原材料

バーボンの場合、スコッチよりも熟成年数の短いものが多く、一定の年数で、それぞれの樽をブレンドすることで安定した商品管理を行う場合が多い。この蒸留所は個人経営だけに、かなり短い熟成で商品化されている。しかし、各工程で独自の手法を用い、年数が浅くとも、豊かな風味を持たせることに成功しているようだ。私もコッパードッグを使用し、樽から出された若いウイスキーをテイスティングさせてもらったが、9週間のスモークが効いているためか、かなりの深い味わいに仕上がっていると感じた。

倉庫から外へ出ると、大型トラクターがやたらと農場を走り回っていた。不思議に思いポールに尋ねると、今年8月21日にホプキンスヴィル周辺で観測可能とされる皆既日蝕のため、「農場をキャンプ場として整備している」とのこと。ここを会場に、ローカルのミュージシャンを呼び、ウイスキーを飲みながら、フェスティバル的に皆既日蝕を楽しんでもらうのだとか。

8月19日(土)から日蝕のある21日(月)までテントサイトの利用は蒸留所の見学、ノベルティとディナープラン込みで400ドル、キャンピングカーでの乗り入れなら600ドルとなっている。

こんな田舎のマイクロ・ディスティラリーでも、イベントを徹底的に楽しむアメリカ人に痛く感心させられる。

なお、バーボンの本場だけに州内では著名蒸留所を周る「ケンタッキー・バーボン・トレール」が有名だが、本蒸留所はその「クラフト・ツアー」部門の一角を成しており、州内全11か所のマイクロ・ディスティラリーを巡るツアーも人気。このブームが、末長く続くことを願う。

MB Roland Distillery
137 Barker Mill Road,
Pembroke, Kentucky
1-270-640-7744

 


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材とした新作エッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在』、好評発売中。
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