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2016.12.20 Tue

たまさぶろのBAR遊記本場スコットランド蒸留所探訪
4.【アバフェルディ編】

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

「アバフェルディ」は、スコットランドの首都・エディンバラから直線で北北東に向かいおよそ100キロに位置する人口2000人ばかりの街である。「スコッチの里」スペイサイドから南下するハイウェイ「A9」という大動脈を「ロジーエイト(Logierait)」で降り、「A827」というテイ川に沿った街道を15キロほど西進した辺りに姿を現す。


アバフェルディ蒸留所全景

「アバフェルディ蒸留所」は、その郊外…というよりも街道を走っていると、街に入るわずか数百メートル手前の左側に横たわっている。ここはこれまでレポートして来た蒸留所に比べ、少々規模が大きい。

アバフェルディは、ブレンデッド・ウイスキー「デュワーズ」のキー・モルト(核となるモルト・ウイスキー)の生産地でもあり、創業者ジョン・デュワーの息子であるジョン・アレクサンダーがチーフ・ブレンダーとして父の生家の近くに建設したフラッグシップ的な、そして唯一の蒸留所だからだろう。


ビジターセンターが入るかつてのモルティング棟

今回のスコットランド巡りで足を運んで来た蒸留所が一般非公開だったのに比べ、本蒸留所は「Dewar’s World of Whisky」と銘打った小綺麗なビジターセンターまでをも併設、「デュワーズ」の歴史を学ぶことができる上、レア・ボトルや記念品などを含めた売店やカフェも備えている。実際、今回の道中で唯一日本人観光客に遭遇したのもこちら。カフェでひと言だけ挨拶を交わした淑女は、定年を迎えたご主人の蒸留所巡りにお付き合いし「ここまでやって来ました」と笑顔で応えてくれた。そんな年齢の頃に、スコットランドの蒸留所を巡る余裕が持てる人生を送りたい…そう考えさせられた。


「ウォータールー・ストリート・スタイル」の蒸留器4機

蒸留棟は「ウォータールー・ストリート・スタイル」。撮影可否の都合上、この道中、蒸留器実物の写真を掲出できるのは、本蒸留所のみ。年産は350万リットル。初留釜2機は、それぞれ1万6600リットル、再留釜2機はそれぞれ1万5121リットル。6.3トンの総容量を誇るタンクは、シベリア・カラマツ製木桶8機、ステンレス製2機を備えている。


水源となるピティリー川

「アバフェルディ」とう地名は、ゲール語で「水の神のプール」を意味する。「神のプール」は蒸留所の脇を流れ、水源となっている「ピティリー川」を指す。「水の神の祝福を受けている」とされるほど、水は透き通り、水量も豊富。アバフェルディのモルト特有の透明感と個性、クオリティの高さはこの水の賜物である。


スピリッツコンデンサー
本蒸留所は1896年、かつて「ピティリー醸造所」があった土地に建てられた。さらにそれ以前の1825から67年までは「ピティリー蒸留所」としても使用されていた。建設当時、蒸留所から、ブレンド作業のための基幹工場があったパースまで、社の建設した鉄道で結ばれており、原材料およびモルト・ウイスキーの詰まった樽の輸送に使用されていた。この鉄道はテイ川に沿うように走り、1960年まで稼働していたと言う。

1972年には建設当時から使用されていたオリジナルの石材を再利用し、蒸留棟と糖化・発酵棟を再建、現在の形となった。また300万ポンド(現在4.3億円強)を投じ、ビジターセンターを整備、こちらは2000年にオープン。現在、年間で3万5000人のウイスキー・ファンが訪れる。モルト・コレクターなどは別とし、「ウイスキーに興味がある」ぐらいのライト・ユーザーにとって、せっかくの蒸留所見学は、しっかりしたビジターセンターを備えたこうした蒸留所を起点とするほうが、より興味を持てるに違いない。蒸留器の撮影も可能なら、製造工程についての解説もある。私は世話にならなかったが、日本語の音声ガイドも備えていると聞いた。


パースまで走っていた自前の機関車

アバフェルディの熟成は現在、すべてグラスゴーで行われており、2007年にはその郊外マザーウェル付近に9棟の倉庫を新設。さらに9棟が準備されていると言う。総額12億ポンド(約1740億円)ほどの投資案件だ。なお、アバフェルディのモルトのほとんどがブレンデッド・ウイスキーに使用されているため、アバフェルディもまた、稀少モルトのひとつとなっている。


蒸留所内にあるシークレットバー「スコッチ・エッグ・クラブ」一般非公開

ちなみに、ブレンドしたモルトを再び樽に戻し、3-6ヵ月熟成させるブレンデッド製法は1902年からマスター・ブレンダーを務めたA・J・カメロンが、この地で生み出した…という説が有力。

かつて熟成に使用されていた敷地内の倉庫は現在、ビジターに開放されており、いくつかの展示物を目の当たりにすることができる。また、特別ビジターに向けたシークレットバー「スコッチ・エッグ・クラブ」が設置されており、私を含めたメディア関係者は、創業者ジョン・デュワーとその2人の息子の足跡に思いを巡らせながら、各種テイスティングを愉しむことができた。こちらには米禁酒法時代のBARのように、しっかりJudas Hole(覗き窓)も設けられており雰囲気満点。壁面には、息子トーマスが、世界プロモーションに飛んだ際の足跡を記した縮尺図がデザインされている。

またわずかにテイスティング用に貯蔵されている樽には、特別ビジターとして、署名を施すこともできると言うわけで、促されるままにチャレンジ。今、この蒸留所に足を運ぶと「たまさぶろ」の署名入り樽を見出すことができる。いやはや、なんだかこれで私もウイスキー通の仲間入りできたような気分だ。


「アバフェルディ21年」入手できる際にぜひ


今年、名BARで巡り合った「アバフェルディ23年」
ウイスキーとは無関係ながら、ピティリー川から前項で紹介したテイ湖までの322.4平方 kmの領域では、金の埋蔵が噂されており、蒸留所はその採掘権を「Alba Mineral Resources」という地下資源発掘のコングロマリットに譲渡している。一攫千金を狙う方は、蒸留所見学とともにピティリー川で金探しをしてみてはいかがだろう。私自身もこの川に足を踏み入れ、金探しにトライ。砂利と一緒にわずかな砂金を掬い上げたものの、根気がないのは親譲り、数粒の金粉を瓶に詰めただけでギブアップしてしまった。

だいぶ余談も入ってしまったが、2016年には日本でも公式ボトルが入手できるようになった「アバフェルディ12年」はハニーの香り、フルボディの丸みのある味わい、ドライでエレガント、オレンジピールの風味が漂う後口はバランスのとれた逸品。とんがったモルト・ウイスキーに注目が集まりがちな日本市場ながら、自宅にキープし、そのバランスのとれた余韻を愉しむには打ってつけの一本かと思う。もちろん、さらに熟成の進んだ「21年」や「28年」など入手困難ながら、ウイスキー好きならその価値を理解するに違いない。

 


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材とした新作エッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在』、好評発売中。
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