BAR TIMES

2016.10.19 Wed

たまさぶろのBAR遊記本場スコットランド蒸留所探訪
1.【ロイヤル・ブラックラ編】

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

「ロイヤル・ブラックラ」と聴いて「ピン」と来る方は、かなりのウイスキー好き…いや、スコッチ好きだろう。それと言うのも、この銘柄が正式に日本に輸入されるようになったのは今年からだからだ。

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水源とするコーダー川の溜池から眺めた蒸留棟

しかし、ロイヤル・ブラックラ蒸留所は、スコットランドでもっとも古い蒸留所のひとつ。シェイクスピアの『マクベス』の舞台とされるコーダー城の領地においてウイリアム・フレージャー英軍大尉が1812年に創業したとされる。フレージャー大尉は1767年、コーダー近隣の生まれ。15歳から陸軍に入隊し、インドなどに駐留。コーダーに戻り蒸留所を立ち上げた。蒸留所は元はビール製造所だったと伝えらる。

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「ロイヤル」を語ることができる歴史ある蒸留所
ブラックラは英国王ウイリアム4世治世下、1833年にスコッチとして初めて「英王室御用達」となり以降、スコッチ・ウイスキーの品質の基準となった。その後も「ロイヤル」という名称を関するウイスキーは、「ロイヤル・ロッホナガ」と1985年に蒸留所閉鎖となった幻の品「グレンユーリー・ロイヤル」の3つのみ。その価値が窺い知れる。

日本のスコッチ通がスコットランドの蒸留所を巡る旅に出ることは珍しくないため、様々な蒸留所の情報が日本でも溢れているものの、本蒸留所は一般に公開されていない。今回、BAR評論家として特別な計らいで見学させてもらったため、その模様をこちらにお伝えする。

蒸留所はネッシーで有名なネス湖の北東20キロほどの場所に位置している。広さは約13エーカー。山崎や白州やらの蒸留所を見慣れた日本人からすると、非常に小規模なそれに見える。そこに10棟に満たないほどの倉庫と蒸留所に勤める人々の住居、そして蒸留器を4機備えた蒸留棟が並んでいる。1966年まではここでフロアモルティングも行われていたが、現在は熟成などを含め、すべての作業を蒸留所外で行っている。

せっかくの機会なのに申し訳ないが一般に公開されていないだけに内部撮影は許可されていない。撮影禁止の理由のひとつは安全対策。高濃度のアルコールを含むウイスキーは「可燃物」と捉えられており、スコットランドの昔ながらの蒸留所は、日本の最新式のそれと異なり、換気が十分ではないのだとか。よって今回のスコットランド巡りで立ち寄った蒸留所のほとんどが内部撮影禁止。日本で様々な資料に目を通していると、「なぜ蒸留器の写真がないのか」といぶかしがることもあるが、撮影禁止が理由となっているケースもあるやもしれぬ。

蒸留所の年間生産量は350万リットル。スコッチは二度蒸留するため、大きな窓から見て左に初留釜が2機、向かって右に二度目の蒸留を行う再留釜が2機並んでいる。初留釜は2機で4万4000リットル、再留釜は2機で4万2000リットルの容量。4機ともすべてストレートヘッド。つまり首がまっすぐ上に伸びたタイプの蒸留器だ。蒸留器が4機となったのは1964、65年に行われた大改修以降のこと。

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内部での撮影は禁止だったので外から 左の二機が初留釜

蒸留前の発酵工程は平均72時間と長時間。その発酵行程には、6つのオレゴンパイン製の木桶と2つのステンレス製を発酵槽として使用。8機で28万リットルの容量を備える。伝統的な製法を保持するため、すべてをステンレスに代えてしまうことは計画していないそうだ。よってこちらの蒸留所では、創業当時の製法をほぼほぼ守り続けている。

生産された蒸留酒は、すべてグラスゴーの集中熟成所に送られ、オロロソやペドロヒメネスなどシェリー樽において、ファーストフィル(つまりシェリーの熟成に使われた直後の樽で熟成。二度使いされていない)でフィニッシュする。そこでボトル詰めまで行われ、フレッシュで華やか、かつフルーティな味わいのシングルモルト・ウイスキーが送り出される。

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筆者の個人的お勧め ロイヤル・ブラックラ21年モノ
現在に日本では12年、16年、21年ものが入手可能だが、私の個人的なお勧めは21年もの。ブラックラならではの、華やかさフルーティさが際立つ。ウイスキー好きの方は、ぜひお試しあれ。

蒸留所を貫くコーダー川を水源として使用しており、敷地内には緑の中に溜池がある。この溜池にかかる橋から眺める蒸留棟は非常にピクトリアルで、なぜこんな蒸留所で職を得なかったのかと自身の人生を恨めしく思うものだ。

第二次世界大戦中、隣接地には空軍基地がおかれるなど、時代時代に閉鎖される事態も起こったものの、現在もスムーズさあふれる価値あるスコッチを提供し続ける。蒸留所を案内してくれたカラ・アンダーソンさんは「第二次大戦中は、この溜池の向こう側にスピットファイア(英空軍機)がずらりと並んでいたの」と解説してくれた。牧歌的な光景しか目に入らない現在からは想像もつかない。

場内が撮影禁止だった代わりと言ってなんだが、蒸留所の作業担当が蒸留棟の西側の大きな窓を開放してくれたので、外から写真を納めることができた。実際にはこんなレイアウトになっているので、ちょっと参考になるだろうか。

蒸留所見学の後、溜池から蒸留棟を眺めながら、ブラックラを試飲させてもらった。どんよりした空模様から一転、陽が差し、こんなのどかな情景の中で、テイスティンググラスを傾けていると、ちょっとした極楽気分だ。

今さらながらスコッチ好きが、毎年スコットランドに足を運ぶ意味が少し判った気がした。

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スコットランドの風に吹かれてのテイスティング 極楽

 


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York』、2016年1月発売予定。
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