BAR TIMES

2016.07.5 Tue

全米最多を誇るワシントン州の蒸留所探訪へ1.【ウッディンビル編】

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

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Woodinville Whiskey Companyの蒸留所 なんとコンパクト

「蒸留所の取材でシアトルへ」と告げると、たいていのウイスキー好きは「シアトルに蒸留所が?」と目を丸くする。

「今、全米でもっとも蒸留所が多いのがワシントン州だ」と渡米前から堂々と応えていたのだが、その実、やはりこの目で確かめるまでは、微妙に半信半疑でもあった。

本場スコットランド巡りに出るウイスキー好きは珍しくもない。アメリカなら、やはりバーボンの故郷ケンタッキー州を旅するのも良い。

しかし、ワシントン州シアトル近郊でクラフト・ディスティラリーを巡るツアーは、まだまだ日本人に知られていないが、コンパクトでかなり気軽に愉しめる。そして、ウイスキーにさほど興味がない方でも気軽に足を運べるとともに、歴史的な薀蓄を気難しく語られることもなく、これからウイスキーの熟成や成長を見守ることができるだけに、初心者にはもって来いかもしれない。現在、全米規模で巻き起こっているウイスキー・ブームにより、ワシントン州では特にクラフト・ディスティラリーが成長中。その数も2015年には110軒以上と全米最多を誇る。

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ウッディンビルの蒸留所を案内してくれたガイド Kaytlyn Brennanさん

2008年に州法が改訂されワシントン州に蒸留所が生まれたのは禁酒法以来というから、これも興味深い。州内で最初の蒸留所は、アイダホ州との境に近い東部のスポケーンで創業したドライ・フライ(Dry Fly)蒸留所。「ドライ・フライ」は、フライ・フィッシングに使われるフライ・ルアーのこと。スポケーンは、同州の小麦の集積所として知られる州第二の都市。

フライ・フィッシングを美しく描いたブラッド・ピットのデビュー作『リバー・ランズ・スルー・イット』の舞台モンタナ州までわずか50kmほど。スポケーンには足を運んだことがないが、地勢的にモンタナ州の美しさを想像させるドライ・フライの蒸留所にも、いつか足を延ばしてみたいものだ。

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一基のみのポットスティルと隠れているが、
右に二連の精留塔
シアトルを拠点に最初に訪れたのはシアトルの東、ウッディンビル(Woodinville)に位置するウッディンビル蒸留所。ドライ・フライに続きに州で二番目にオープンした。

ウッディンビルは、そもそもワシントン・ワインの小規模ワイナリーやテイスティング・ルームが集まるワインの里として、地元の人々には知れ渡る土地柄。その地にウイスキー蒸留所が誕生したという図式で、周辺には著名ワイナリーが点在している。

正式名称は「Woodinville Whiskey Company」。2010年に創業。大学農学部の同期だったオーリン・ソレンソン氏、ブレット・カーライリー氏が、メーカーズ・マークのマスター・ディステラー、デビッド・ピッケレル氏を招へいし、監修を依頼、操業開始したのがこの蒸留所。ワシントン州を含む米北西部産の小麦を使用し、ドイツ製Kothe Distilling社の洋梨型の蒸留器で、バーボンやアメリカン・ウイスキーを生み出している。

現在の蒸留所に移転し、まだ2年。日本の大手メーカーの蒸留所を見慣れている者としては訪れてびっくり。なにしろ通り沿いの駐車場にクルマを入れると、目の前の建物には、テイスティング・ルームと蒸留器が備えられており、その大きさも小学校の体育館程度。「え、ここ、蒸留所なのか」という新鮮な驚きを受ける。

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マッシュタンクもここにのみ

そもそも州法で認められているのは、あくまでクラフト・ディスティラリー。「クラフト」である条件は、年間生産量15万ガロン以下。1日に1人に販売できる量は2リットルまで、と決められている。テイスィング・ルームで試飲できる量も1人1日あたり2オンス(約60cc)まで。こうした限定された法律の元、丁寧な手作りの良さを追い求め、小規模蒸留所を起業する人々が増えている。この蒸留所の従業員も10人足らずだ。

毎日、小麦やトウモロコシが目に見える程度運びこまれ、これを3000ガロン強の樽で熟成させ、1321ガロンの小さなポットスティルを使用し、蒸留。アルコール度数を調整する為に加水され、その場で樽詰めされる。熟成はさすがに、別の場所にストレージを設け、そちらでということになる。もちろん、蒸留所ができて、それほど経つわけではないので、現在は5年もの、3年ものという若いウイスキーばかり。

それでもウッディンビルは、2016年に全米クラフト・スピリッツ協会のコンペで「Woodinville Straight Bourbon Whiskey」 が金賞を獲得。さらにAmerican Distilling Institute Spirits Competitionでも金賞を含む3つの賞に輝いているワシントン州で、全米でもっとも注目を集めている蒸留所のひとつである。

テイスティングすると、確かになかなか素性がよく、癖もないため、非常にポテンシャルを感じさせる。まだまだ「若い」という点は否めないが、ケンタッキーのバーボンのように7年、12年と熟成が進んだ商品がリリースされるのが、非常に愉しみである。

日本にはまだ輸入されていないし、その生産量からそのメドも立っていない…ということで、私もこのバーボンを一本購入、持ち帰って来た。いささか若さあふれるので、もう少々時間が経ってから封を切ろうと企んでいる。その時、どんな香りとテイストをもたらしてくれるのか、今から胸を躍らせているのだった。

Woodinville Whiskey Co.
14509 Woodinville-Redmond Rd NE,
Woodinville, WA 98072
1-425-486-1199

 


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York』、2016年1月発売予定。
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