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バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

2016.06.1 Wed

シアトルBAR探訪 2)ダウンタウンの「極楽浄土」
ELYSIAN BAR

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

シアトル滞在の初日、ディナーが終わり、部屋に戻る。眠い。強烈に眠い。ほんの少し気を許せば、気絶し崩れ落ちそうに眠い!

しかし時刻は19時30分を少し回ったばかり。シアトルへの空路は、時差調整に完全に失敗。朝9時の到着時から眠気に襲われていたのだから、よくこの時間まで持ったものだ。

だが、それでも、今、この時間にベッドに倒れ込んでしまうと、午前3時ぐらいには間違いなく目が覚めてしまい、二日目も時差ぼけの厳しい日となってしまう。

気絶しそうな睡魔の中、なんとかノートPCを開き検索を走らせると、3ブロックほど先にビアパブがあることが判る。BAR評論家と名乗るからには、静かで洒落たオーセンティックBARを望みたいが、贅沢など垂れている場合ではない。とにかく部屋から抜け出し、ビールでも飲んでいれば、眠り込んでしまうことはないはずだ。

財布、携帯、部屋のカードキー、所持金を確認し、部屋を後にする。パブで呑むなどそれだけあれば十分だ。

3月末の米ワシントン州シアトルだけに、日が暮れた後はそれなりに風も冷たいが、3ブロックではあれば、コートも必要ない。眠気には心地酔いくらいだ。

辿り着いたのは「ELYSIAN BAR」。店名はギリシャ神話の「極楽」を意味する。酒飲みにとっての理想郷か…。

少々カジュアルなドアを開く。大きな吹き抜けふうに天井は高く、奥に細長い大箱の店。広さから想像するに、日本ではハードロックカフェを思い浮かべてもらえば把握されやすいだろうか。

入口から右手側が奥に向かって長いバーカウンター、店の奥がテーブル席になっている。左側は従業員用の倉庫などおよびトイレ。奥のテーブル・スペースの広さを考えるとランチやディナーに活用できるパブとしての性格が濃い。ロフト状に設置された2階席もある。

火曜日の早い時刻だったせいもあろう。店内は比較的すいていた。テーブル席も含め、埋まっているのは4分の1ほど。時刻は20時に近かったが、アメリカではこの時間は「宵の口」。混雑するのは22時頃だろう。もっとも金曜日に再訪した際は、奥のテーブルにかろうじて陣取ることができた程度に大いに賑わっていた。

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手前から5つ目ぐらいのカウンター席に着く。「パブ」と思い込んでいるから、まずは地元のビールを訊ねてみる。するとざっと次の通り、ドラフトがずらりと並ぶ。

■Immortal IPA
■Dragonstooth Stout
■Loser Pale Ale
■Mens Room Red
■The Wise ESB
■Avatar Jasmine IPA
■Space Dust IPA
■Superfuzz Blood Orange Pale
■Perseus Porter
■Arboreal
■Avatar Jasmine IPA Gin
■Dy-no-Ryte! Rye Pale Ale
■Man of Mystery
■Chinook Up
■Joe Azacca
■Said Zest
■Cyclops
■Boozy School Dropout

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最初の一杯は、ネーミングから「Immortal IPA」

ちなみに私自身、まったく口にしなかったがボトルでも;
■Avery Hog Heaven Barleywine
■Bear Republic Hop Rod Rye
■Harvested Gluten Free IPA #3
■Miller High Life
■Ommegang Witte
■Seattle Cider Semi Sweet
■Stillwater Saison IPA
■Tieton Cherry Cider
■Uinta Black Lager
■Port Brewing Imperial Stout
と地元の品ぞろえが充実している。
日本で人気のベルギービールも9種類。以下の通りだ。

■Bacchus Flemish Red
■Chimay Grand Cru
■Duvel Golden
■Petrus Sour Pale
■Saison Dupont
■Saxo Triple Blonde
■Castle Brewing Gueze Fond
■Timmerman’s Strawberry Lambic
■Vandershinste Sour

時差ボケ対策にやって来たわけだから、まぁ、あまり贅沢はいわない。酒さえあればいい…などと考えていたのは大間違い。2品ほど「地元のビール」と問いかけていると、若いバーテンダーが気を良くしたのだろうか。「これを知ってるか」とジンのボトルをドン!とカウンターに置く。「いや、全然知らない」と答える。すると、ショットグラスにさっと注ぎ「呑め」という。少々ビールを入れたからと言っても、いきなりジンをテイスティングするのは、舌がしびれるような刺激もありえるので、気が進まなかったが仕方がない。

しかし、試してみるとジェニパーの癖を感じない極めて柔らかいソフトなジン。アルコール臭も気にならず、確かにストレートで呑んだとしても、文句のないフィニッシュになっている。うむ、悪くない。

これはもう少しこの味を探ってみたい。「これでジントニックを」とオーダー。バーテンダー氏も「ほい来た」とばかりに応じてくれた。だが、残念。製氷機から生まれたここの氷では、ジンの持つ素養とトニックの爽快感に水が差されてしまい、どうも今一つ。おそらく日本のオーセンティック・バーなら、クオリティの高い氷を使用し、よい塩梅に作ってくれるに違いない。

逆にこの造りなら、マティーニにしてもらったほうがより特徴が引き出されるに違いない…とばかりに頼むと、これはハマった。しっかり、ジンの素直さが前面に押し出されていながら、ジン特有のきつさを感じさせず、マティーニとしてフレッシュでそれでいて柔らかく仕上がっている。それでいてジンの核が崩れていない。満足、満足。

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新しく蒸留したクラフト・ジン

この間、実は右となりに座っていた女性二人組に「なんで写真ばっかり撮ってるの?」と絡まれるが、バーテンダー氏が「カクテルの写真、撮るぐらい普通だろう」とフォローも利いている。好感度が高かった。

隣の女性はだいぶ酔いが進んでいたようで、何の前触れもなく、チョコレートを配りはじめる。仕方がなく食べる。「コーヒー味だから、ウイスキーに合うね」と答えると「チョコじゃないよ。コーヒー!」と訳の訳の分からない返事。うむ、かなり酔っているようだ。

これはそろそろお暇したほうが良さそうな風向きだ。時計を覗くと22時30分になろうかという時刻。この時間なら、ベッドにもぐりこんでも問題あるまい。そそくさと引き上げる。

翌朝、ちょっと調べてみると、BAR評論家として「引き」の強さに、改めて驚くとともに自慢したくなる。BARを経営する「Elysian Brewing」は1996年にその醸造所をスタートさせて以来、約350種ものクラフト・ビールを生み出して来たという。また、私が足を運んだ一軒の他にキャピトルヒル(Capitol Hill)、タングルタウン(Tangletown)、Elysian Fieldsといくつものレストランやビヤホールを経営している、呑み助集う有名店だった。

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マティーニが美味いBARは、すべて最高…

クラフト・ビールのみならず、勧めてもらったジンこそ、ブリューワリーで新しく蒸留をスタートさせたクラフト・ジンだった。今後、ウイスキーやワインも手広く手掛けて行く計画だという。

ホテルの近所だからと乱痴気騒ぎ向けのビアパブだと侮っていた点を猛省。

美味い地ビールとマティーニを呑んだおかげで、その後、ばったりと意識がなくなり、朝5時半、気持ちの良い朝焼けとともに目が覚めた。

酔いBARに巡り会うとは、どの街に足を運んでも、極めて幸せな出来事である。

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酔いBARのおかげで拝むことができたシアトルの朝焼け

ELYSIAN BAR
1516 2ND AVE.
SEATTLE, WA
1-206-467-4458

 


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York』、2016年1月発売予定。
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