BAR TIMES

2016.05.30 Mon

My Lost New Yorkより ニューヨーク、
行きつけのBARたち
その3【完結編】

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

9・11…米同時多発テロから15年、BAR評論家が20世紀末の失われたニューヨークを語る。

2001年9月12日、ワールド・トレード・センター倒壊後の粉塵舞うマンハッタンに戻った。90年代にジャーナリストをめざし、多彩な国の人々と酒を酌み交わし、レイ・ブラッベリらの作家たちとの交流、熱き日々を送った街に…。

最新BAR事情ほかゲイ文化への考察など生のニューヨークを伝える渾身作。

この度、書籍『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる9・11前夜と現在(いま)』の2月14日発売を記念し、当該書籍から転載とした。

 


 

マティーニといえば個人的に好みなのが、ヒルトン・タイムズ・スクエア(Hilton Times Square)のロビー階にある 「パイナクル・バー(Pinnacle Bar)」。正しい英語の発音では「ピナクル」とルビを振るのが正しいのだろうが、どうもアメリカ人は「パイナクル」と発音しているような気がする。Nikonを「ナイコン」と呼ぶのと同じである。

レクタングル・カウンターが特徴的なこのBARは、マティーニをシグニチャー・カクテルにしているのか、各種マティーニが楽しめた。今でこそ、日本でもマティーニを百種類も揃えるようなBARも珍しくはないが、その当時、何種類ものマティーニをメニューにそろえて自慢するBARは、もの珍しかったのだ。私が訪れた際は、バーテンダー氏もフレンドリーでカジュアル。その割には、キリっと刈り込んだシャープで奥行きのあるマティーニをサーブしてくれるので、好印象だった。百五十ミリリットルあるニューヨーク・グラスで呑むのも醍醐味だ。

一度、このマティーニで酔っ払ったランドルフが「ここは俺が払うよ」と伝票を取り上げ、金額を観た瞬間に「やっぱり、みんなで割り勘にしよう」と満面の笑みで振り返ったのは、私にとって心温まるエピソードだ。

Pinnacle Bar
234 West 42nd Street,
212-840-8222(hotel)

 

ホテルのBARの中で、もっともカジュアルに使えるのは、シェラトン・ニューヨーク・ホテル・アンド・タワーズ(Sheraton New York Hotel and Tower)の一階にあるスポーツ・バー「ハドソン・バー(Hudson Bar)」。ホテルの中にこんなカジュアル使いができるBARがあるというのも、なかなかアメリカらしくよろしい。逆に表現すると、ニューヨークらしくないとも言える。街中のスポーツバーでは偽身分証を持った若者や血の気の多い連中も多かったりと、治安が悪いというほどじゃないが、ストレス発散型の客が多い。それと比べると、ここは観光客も多いせいか、小綺麗で落ち着いた客がほとんどで居心地が良い。TVスクリーン数が充実しているのも嬉しい。もちろん、どのスクリーンもニューヨークのチームのゲームをオンエアしている。

このBARで目撃したもっとも印象的なスポーツシーンは、しかしニューヨークのチームの試合ではない。セントルイス・カージナルスのマーク・マクガイア(Mark McGwire)が九八年、ロジャー・マリス(ヤンキース)が六一年に記録したシーズン六十一本という当時のシーズン最多ホームラン記録を破る六十二号を放ったシーンだ。このホームランは、マクガイアの打球にしては弾道の低い一発でスタンドぎりぎりに飛び込んだ。客同士みんなで、テレビ画面に向かってのけぞり、お互いに「入ったのか? 入ったのか?」と声をかけて確認しあったほどだった。

結局、マクガイアはこの年七十本を放ち、ホームラン王に。二位に甘んじたシカゴ・カブスのサミー・ソーサも六十六本を放ったのだから、まさにホームラン狂想時代だった。この記録も二〇〇一年にサンフランシスコ・ジャイアンツのバリー・ボンズが七三本まで記録を延ばす。しかし、禁止薬物使用疑惑とともに近年、三選手の評価や記録について疑問符がついて回ることになる。メジャー年間最多本塁打記録は、いまだに「マリスのもの」と主張するメジャーファンは少なくない。

日本のメディアでの表記は「マーク・マグワイア」とされているが、それではマクドナルドを「マドナルド」、ポール・マッカートニーを「マカートニー」と表記するようなものがゆえ、ここではあえて、「マクガイア」と記させてもらった。

Sheraton New York Hotel & Tower
811 7TH AVE. & 53ND ST
212-581-1000

 

日本人に遭遇する確率がもっとも高かったのが、ロックフェラー・センターにあるビューバー「レインボウルーム(The Rainbow Room)」だ。GEビルの六十五階にあるこの店、私はもっぱらバー・ラウンジとして使用していたが、天井の高いアールデコ調の洒落たレストランでもあり、グループでのパーティにも向いていた。何しろ、窓際で呑んでいたら、大学の同級生が通りすぎ、唖然としながらも声をかけると、立教女学院高校の同窓会を恩師を交えて開いているところだと回答されて、ぶったまげたことがある。それだけ、この高校からは駐在員に嫁いでいる女性を輩出しているという証でもあろう。

そんな興ざめするエピソードもあるが、もっともマンハッタンらしい夜景を望みながらカクテルを傾けるには、右に出るBARはあるまい。それだけに観光客に人気なのは致し方ないところだ。

意外なのは、ここのトイレから眺める夜景も絶景である点。何もトイレからの眺望まで考えずともよいのにと思うほど。静かにひとりで夜景を眺めたい場合は、意外にお勧めのスポット(?)である。

The Rainbow Room
30 Rockefeller Plaza, 65th FL
212-632-5000

05301200記事内1
有名な「レインボー・ルーム」が入居しているロックフェラー・センター

 


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York』、2016年1月発売予定。
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