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バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

2016.04.25 Mon

たまさぶろのBAR遊記 死ぬまでに一度は行きたい、
ロング・バーと
シンガポール・スリング

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

そろそろゴールデン・ウイークの計画を立てる方も多いことだろう。海外へと脱出する中には、シンガポールへという羨ましい方もいることかと。

その際、トロピカルな雰囲気をお求めなら「ラッフルズ・ホテル」の「ロング・バー」を勧めたい。と言うのも、世の中に数多カクテルが存在すれども、その発祥の地がこれほどはっきりしている一軒は中々お目にかかれないからだ。

そのカクテルの名は「シンガポール・スリング」。シンガポール・スリングは1915年、同ホテルのバーテンダー・嚴崇文(Ngiam Tong Boon ギャン・トン・ブン)により編み出された。当時、女性が公共の場でアルコールを嗜むのはNGとされ、まるでフルーツジュースを飲んでいるように見える…という工夫の下に誕生したとされる。そして、これほどまでにその由来を高らかに謳っていながら、他からクレームのつくことのない由緒正しい出目のカクテルは滅多にない。そして、このカクテルは昨年ちょうど誕生100年を迎えた。

このBARでは必ずお目当てのシンガポール・スリングをオーダーしよう。日本のBARで「本場のオリジナルのレシピは女性向けなので甘さがかなり気になる」と吹き込まれてきた。しかし、実際に挑戦してみると、これがトロピカル・カクテルであることを考えれば、この程度の甘さは気にならない。フレッシュな味わいは、シンガポールのような南国で避暑カクテルとして愉しむに、むしろピッタリだ。

オリジナルのレシピは、ドライジン、チェリー・ブランデー、レモン・ジュース、シュガーを少々、ソーダで割ったもの。しかし近年は変化もあり、レモンの代わりにパイナップルジュース、ライムジュースとなり、甘味にはグレナデンシロップ、コアントローを使用。ベネディクティン、アンゴスチュラ・ビターズなどで味を調え、ソーダを使用しないレシピとなっている。

それにても、ここのバーテンダーは一日に一体、何杯のシンガポール・スリングを作っているのだろうか。想像すると少々可哀相な気がしてくるが、それだけ造り慣れているのだろう。

BARそのものは、ウッディ─でクラシカルなインテリア。1920年代のマレー半島の大農場をモチーフにデザイン。タイル張りのフロアにはオリエンタルなカーペットが敷かれ、籐やラタンの調度品は、確かにコロニアルな雰囲気を完璧に再現している。

客層もTシャツ、短パンにビーチサンダル…およそBARに似つかわしくないスタイルの客も多く子供も一緒にテーブルについている。肩肘張らずに愉しめる。

カウンターの上に置かれた古来名物の落花生を割り、口に含み殻を床に捨てる。なんでもポイ捨てには厳しい罰金が待ち受けているシンガポールでも、ここだけは伝統的に床へのポイ捨てが許されているのだか。

ただし、呑み過ぎには注意。そもそも、このカクテルは一杯35シンガポールドル(3500円弱)もするので、懐も痛める。

ホテルは1887年創業。残念ながら1921年に誕生した初代「ロング・バー」の姿は今はない。初代は現在のホテルのドライブウェイ付近にあり、ボールルームいっぱいに広がる長いカウンターゆえに、その名で呼ばれた。1991年に施された改築により、ホテル本体ではなくアーケードの二階に移った。つまり現在のロングバーは、たかだか四半世紀の歴史を持つのみ。

BARよりもカクテルのほうが長い歴史を持つこの一杯。死ぬまでに一度は体験して欲しい。

Long Bar
1 Beach Road, 2F Raffles Hotel
Singapore 189673
+65 6412 1816

 


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York』、2016年1月発売予定。
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