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バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

2015.11.25 Wed

木村硝子店社長・木村武史氏×
インターナショナル シーバス ブランドアンバサダー マックス・ワーナー氏
カクテルを美しく彩る
日本のグラスデザインとモノづくり

BAR TIMES 編集部

創業1910年。プロが使うテーブルウエアの分野において、工場を持たないガラスメーカーとして長い歴史を刻み続ける木村硝子店。“作りたいグラスを作る”、ただその想いから生み出された自社デザインのグラスは何と800種類にもおよぶ。常にオリジナリティを追求し、グラス製作への情熱を注ぎ続ける木村硝子店社長・木村武史氏。今回、インターナショナル シーバス ブランドアンバサダーであり世界的ミクソロジストでもあるマックス・ワーナー氏が、グラス作りへの想いや考えを聞くために木村氏の元を訪れた。
1左から、マックス・ワーナー氏(インターナショナル シーバス ブランドアンバサダー)、ジョシュ・レイノルズ氏(ザ・シーバスマスターズ2015 世界チャンピオン)、漆戸正浩氏(ザ・シーバスマスターズ2014 世界チャンピオン)。

デザイン性を重視した“すぐに割れるグラス”

東京・湯島にある木村硝子店のショールーム。やわらかな照明の中、壁一面に備え付けられた棚には背の高いカクテルグラスや美しくカッティングが施されたロックグラス、薄く繊細なタンブラーなど多種多様なグラスが所狭しと並んでいる。それらのグラスを興味深げに手に取り、熱心に眺めるのがマックス・ワーナー氏とジョシュ・レイノルズ氏(ザ・シーバスマスターズ2015 世界チャンピオン)、漆戸正浩氏(ザ・シーバスマスターズ2014 世界チャンピオン)の3人。マックス氏が、斬新なグラスデザインのアイデアはどこから生まれるのかを木村氏に尋ねた。

「私はお酒を飲まないからカクテルのことはよく分からないけど“こんなグラスを作ったらカッコいいだろうな”って、ただそれだけです。どのグラスも自分たちが作りたかったものを形にしたものばかりだけど、中でも気に入っているのがこの『es(エス)』というシリーズ。ただね、これはすぐに割れますよ(笑)」。

すぐに割れるグラス? それは一体どういうグラスなのだろうか。

「これは口の部分を斜めにデザインしたグラスで、微妙に角度をとりながら一つひとつ手作業で削っています。指で触ると滑らかに感じるけど、顕微鏡で見ると実は細かい亀裂が入っているんです。最初から割れている状態だから、ちょっとぶつけただけでもすぐに割れる。売れないのは承知で作っているんだけどね(笑)。それでもね、都内にある一流ホテルのバーではカクテルやお冷やを出すのに使ってくれているんですよ。買いに来られた時に『割れやすいから使わない方がいいよ』って言ったんだけどね(笑)」。

グラスを売っているのにもかかわらず“使わない方がいい”とは何とも矛盾しているが、デザイン性を重視する木村氏の想いや人柄がよく表れている。この言葉にマックス氏の表情からも思わず笑みがこぼれた。

3デザインへのこだわりを語る木村硝子店社長・木村武史氏。

4カッティングが美しい「es(エス)」シリーズ。

2ショールームの壁一面に設けられた棚には、自社デザインのオリジナル品が多く飾られている。

世界の工場を又にかけオリジナルグラスを製作

今回の訪問でマックス氏の興味をもっとも引いたのが厚さ約1ミリという極薄のグラス。木村硝子店では『コンパクト』というシリーズ名でラインアップされており、現モデルは同社が1950年代頃に販売していた『極薄一口ビールグラス』がデザインの基本になっているのだという。今から60年以上も前に厚さ1ミリのグラスを作っていたというから驚きだ。飲み物をそのまま手に持っているような不思議な感覚と口当たりを楽しめるとあって根強い人気を博している。あまりの薄さに感心したマックス氏が気になる強度について質問をした。

「こんなに薄いのに強度がある。これは一体どのような作りなのですか?」。

「最後の口を仕上げる工程に秘密がかくされています。薄さのわりに少し丈夫に感じるグラスとなりますが、決してすごく丈夫というわけではありません」。

「こんなに薄く作れるのは日本ならではの技術ですか?」。

「『コンパクト』シリーズは日本製ですが、来年の新商品にと先日ステムのない極薄のワイングラスをハンガリーで作りました。『コンパクト』よりもこっちの方が薄いんじゃないかな。ハンガリーには元々大きな国営のガラス工場があったので職人はみんな高い技術を持っているんです。もしかするとここまでの薄さを実現させるのは日本じゃ難しいかもしれないですね。相当に薄いので氷の塊をコツンと入れたらそれだけで割れてしまいますよ。洗うのも怖い(笑)」。木村硝子店では、日本を含めスロバキアやチェコなど海外のガラス工場で自社デザインのグラスを作っている。今回のハンガリーの工場もそのうちのひとつなのだという。

「我々はどこの工場がどのくらいの技術を持っているかを知っているので、デザインによって依頼する工場が違います。中でも、うちが依頼しているこのハンガリーの工場は生え抜きの職人揃いなので、世界最高の技術を持つ工場のひとつだと思います。我々が求める高いクオリティのグラスを作ってくれるやっと見つけた工場なんです」。

7世界のガラス工場を知り尽くす木村氏。
6デザイン性、技術性の高さに感心するマックス氏。


5ハンガリーで製作したというステムのないワイングラスを手に取り、あまりの薄さに驚くマックス氏とジョシュ氏。


バー専用のアンティーク風が美しいグラス

木村氏がマックス氏にぜひ見せたいグラスがあるといって紹介してくれたのが『木勝』シリーズだ。ショットグラスからカクテルグラスまでサイズも形状も様々に揃ったグラスには、和柄とはひと味違ったテイストの切子模様が施されている。これは、木村氏がこれまでに集めてきたヨーロッパのアンティークグラスをベースに、自社デザイナーと共にカッティングデザインを開発したのだという。

「これらはすべてバー向けに作ったグラスです。日本のバーテンダーがヨーロッパで買って来たアンティークグラスを使っているのを見て “そうか、アンティーク風もいいな”と思ったのがきっかけです。日本の切子模様にはない雰囲気がいいでしょ(笑)。『木勝』を手掛けてもう10年以上になるけど、今では120種類くらいあるかな」。

「バー専用グラスというのがいいですね。私たちバーテンダーはカクテルの味わいはもちろんですが、グラスの美しさや手触りなども非常にこだわっているんです」。

「我々もそこを大事にしているから『木勝』シリーズだけは自社でしか販売しないし、雑誌などの露出も控えています。この美しいグラスと出会えるのはバーだけ、あまり多く目に触れない方がいいと思っていますから」。

8約120種類ある『木勝』のライアンアップを熱心に見る。


9ヨーロッパのアンティークグラスがデザインソースになっている『木勝』は、どれも美しいカッティングが施されている。

モノ作りの現場、ガラス工場で実際の工程を見学

木村硝子店を後にした一行は、実際の製作現場を見学しに同社の主力商品を作っている都内の田島硝子を訪れた。ここは1953年創業のガラス製造工場で、東京都伝統工芸品に指定されている「江戸硝子」を作る工房として知られている。1400℃もの高温でガラスを溶かす大きな窯を中央に、熟練の職人たちが黙々と立ち働く工房内はまさにモノ作りの現場だ。中でも、飴のごとく溶けたガラスをトングのような道具で引っぱりグラスにステムを付けていく作業は、マックス氏も思わず足を止める見事な職人の技。日本のモノ作りを目の当たりにした3人は、この夜いつもより感慨深げにグラスを傾けたことだろう。

12グラスにステムを付ける職人の技。


10木村硝子店の主力商品を手掛けるガラス製造工場の田島硝子。高温でガラスを溶かす大きな窯を中央に職人たちが立ち働く。

13一日をかけて日本のモノ作りに触れた3人。最後は並んで記念撮影。



木村 武史(きむら たけし)プロフィール
1943年東京生まれ。大学卒業後、大阪の商社で修業をし、1969年に株式会社木村硝子店に入社。1994年に木勝シリーズ発表、その後ABCカーペット、MOS、ニューヨーク高島屋ほか、ニューヨークのトレンディーなセレクトショップで販売。1996年代表取締役就任、現在に至る。

木村硝子店


マックス・ワーナー プロフィール
インターナショナル シーバス ブランドアンバサダー/ミクソロジスト
世界中の人々を魅了する多彩な素材を使ったカクテル、バー、レストラン界における絶大なる経験、そして情熱溢れる真摯な姿勢が認められ、2004年よりシーバス・ブラザーズ社で現職に。これまでに世界38カ国以上を訪れ、シーバスリーガルの魅力を伝えている。

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