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2019.02.28 Thu

ジャパニーズビターズ開発者 山﨑勇貴氏に聞く世界のバーテンダー垂涎の
純国産ビターズ、その背景

CREATORS' INTERVIEW

日本で生まれた初の国産ビターズ「The Japanese Bitters」。柚子、紫蘇、旨味の3つのフレーバーが展開され、いずれも日本独自の和の素材が使われている。低温真空抽出という新しい抽出法を駆使し、最大限に鮮度を引き出しながら高濃度のビターズ製造を可能にした。その味わいは実に深い。2018年8月の発売からまだ半年足らずだが、すでに世界中のバーテンダーが買い求めるほど注目を集めている。The Japanese Bittersとは一体どのようなビターズなのか、その生みの親である山﨑勇貴氏に開発秘話を聞いた。(撮影場所:BAR TIMES STORE/東京銀座)

音楽の道を志し20歳で渡英。
連日通ったバーで、いつしか夢はバーテンダーに


——山崎さんはビターズを開発する前、バーテンダーだったとお聞きしました。どのような経緯で今に至っているのでしょうか。

「元々は音楽がやりたくて、語学留学も兼ねて20歳でロンドンに渡りました。音楽学校にも通っていましたがバンドメンバーもなかなか見つからず、音楽活動は苦労の連続でしたね。少しでも演奏できる場所を求めて、辿り着いたのがバーでした。ロンドンではジャムセッションと言って、即興のライブや誰でも自由に演奏できるバーが結構あって、僕も毎週のように通っていました。その中に働きながらも時々ジャムセッションに参加するバーテンダーもいて、その姿に“かっこいいな”と思う自分がいたんです。それがバーテンダーの道に進もうと思ったきっかけですね。それから、ロンドンの寿司バーでバーテンダー見習いとしてキャリアをスタートさせました。帰国後は、汐留の『パークホテル東京』のバーで4年間修業を積みました。ホテルバーですので、国内外から来られた様々な方と接する機会も多く、それが海外再進出のきっかけにもなりました。」

——今度はバーテンダーとして海外へ渡ったんですね。

「『パークホテル東京』で働いていた時、ウイスキーライブトロントのオーガナイザーと知り合い、カナダで行われるカクテルコンペティションへの出場を勧められました。日本での修業の成果を試したい気持ちと、いずれまた海外でキャリアを積みたい気持ちから出場を決めた僕は、何とその大会で優勝することができたんです。これが大きな転機となりましたね。優勝をきっかけにバーテンダーとして海外での人脈も広がり、縁あってトロントのローカルバーで働くことができました。」

——日本とカナダのバーではどんな違いがありましたか。

「まず驚いたのは自家製ビターズのマーケットの大きさです。カクテルにこだわりのあるバーでは、自家製ビターズをつくるのはごく一般的なことでした。ですから、僕も周りのバーテンダーからつくり方を教わりながら、試行錯誤で自分なりのビターズづくりに日々励んでいたんです。そうすると、だんだんその面白さにのめり込むようになり、定番のハーブやスパイスについてもその奥深さに魅了されていったんです。」


手応えを感じた和のビターズ。
商品化に向け立ちはだかる日本での認可の壁


——その経験が今につながっているんですね。

「ええ。トロントのバーで働いていたある時、東日本大震災が起こりました。日本大使館が主催するチャリティーイベントに、日本人バーテンダーとして参加して欲しいと打診を受けたんです。今でこそ海外で活躍する日本人バーテンダーは多くいますが、当時のトロントには僕くらいしかいなかったと思います。遠く離れた日本のために、僕はもちろん参加しました。イベントには多くの外国人も集まります。日本で起きた大災害はみんな知っているけど、それだけじゃなくてもっと日本の良さを知ってもらいたい。それで日本らしさを感じる柚子、紫蘇の自家製ビターズでチャリティーカクテルを提供しようと決めました。嬉しいことに、来場した多くの人たちから気に入ってもらえ、とても人気を集めました。それで思ったんです、ひょっとしたら日本の素材を使った日本産ビターズがあったら面白いんじゃないかって。」

——販売は海外をターゲットにしていたのですか。

「そうですね。ヨーロッパをはじめとした海外をメインターゲットにしていました。実は僕、ホビーズジンのアジアブランドアンバサダーも務めているんです。その関係でできた人とのつながりや、これまで培った人脈などから販路を開拓しました。徐々に浸透していったのか、展示会を開いた時など購入希望や問い合わせが殺到するほどで、カナダだけでなくヨーロッパ諸国からの要望も多かったですね。シンプルにこんなにも欲しいと言ってくれている人が世界中にいるのだと知って、改めて覚悟ができましたね。」

——ビターズもアルコールですから、日本では酒造免許が必要になります。免許は取得されたんですか。

「ええ、取りました。自分でもよく酒造免許を取って販売することに踏み切ったなとつくづく思います(笑)。ここに至るまでかなり険しい道のりでしたから。何の商品をどのくらいつくるのか、どのくらい売れるか。その販売見込みをエビデンスと共に証明し、税務署に提出しなければなりません。そんなこと専門外ですからね、結構手こずりましたよ(笑)。ボトルひとつとってもそうで、このスポイトの付いた茶色の瓶は今まで食品容器に使われた前例がなく、保健所から許可が下りなかったんです。専門機関で分析してもらい安全性を確かめ、やっとOK。本当にひと苦労でしたね。ですからこのボトルにはとても愛着があります。商品の顔とも言えるラベルには和紙を使い、毛筆と水墨画で表したフレーバーは、掛け軸をイメージしているんです。」

素材にも製法にもとことんこだわる。
和の味わいを知る日本人だからこそのものづくり


——素材や製法など味わいについてもかなりこだわりをお持ちですよね。

「そうですね。今は柚子、紫蘇、旨味の3種類を商品化していますが、それぞれ契約農家や生産者から仕入れています。例えば、柚子は徳島県の自然豊かな秘境・木頭の「黄金の村」で育った、香り高い木頭柚子を使用しています。紫蘇は、千葉県の「長生あおば農園」でつくられているもので、苗木から摘み取り時期まで育成状態をしっかり管理された青紫蘇です。旨味は、北海道産利尻の昆布と枕崎の鰹節、神石高原の椎茸をバランスよく調合しています。直接仕入れることで生産者の方々と信頼が生まれ、結局は商品の品質にもつながっていくと考えています。また、製法ひとつでこれらの素晴らしい素材をより生かすことができます。僕が採用した低温真空抽出法は、その名の通り低温で抽出することで熱に弱い成分をできるだけ自然に近い状態で抽出ができます。ですから、ほんの一滴味わうだけで感動するほどの素材感を実感できますよ。」

——ちなみに3種類の中で、特に人気のフレーバーはどれですか。

「海外で人気が高いのは、気軽に和のテイストが楽しめる紫蘇ですね。ハーブですから、比較的使いやすいのではないでしょうか。柚子ももちろん人気ですが、味覚のはっきりとしたレモンやライムと違い、使い方によってはその存在感が埋もれがちになる傾向にあります。旨味は、和の味わいとして非常に注目度は高いですが、使いこなすのが難しいという声もあります(笑)。」

——山崎さんおすすめの使い方を教えてください。

「どのフレーバーも、ビールとの相性は最高です。柚子はエールビール、紫蘇はラガービール、旨味はスタウトがおすすめです。ワンドロップでガラリと味わいが変わりますよ。カクテルであれば、和の柑橘が香る柚子マティーニもいいですし、苦味の利いた紫蘇ジントニック、深い味わいの旨味ブラッディマリーもおいしいですよ。実際に味わってみて、好きなように使ってほしいですね。」


信念は今も昔も変わらない。
純国産ビターズを軸にもっと世界を広げたい


——The Japanese Bittersの今後の展開は何かお考えですか。

「日本ならではの伝統や素材、味わいを生かしたフレーバーづくりの方向性は自家製ビターズを始めた当初から変わっていません。今はまだ3種類のみですが、これからもっとラインアップを増やしていきたいと考えています。それとともに、今世界では空前の和食ブームですから、和食レストランにも積極的に仕掛けていきたいですね。その他に考えていることとして、バーテンダーとリキュールを共同開発したり、海外でバー事業も展開したい。ビターズのつくり手としても、バーテンダーとしても、経営者としても、まだ誰もやったことのない分野に挑戦してみたいんです。その気持ちが僕を突き動かすすべてなんでしょうね。」

山﨑氏はすでに新たな純国産ビターズの開発に着手しているとか。次はどんな日本の味わいで私たちを驚かせてくれるのか、期待が高まる。


山﨑 勇貴(やまざき ゆうき)
JCC AGENT代表/ボビーズジン アジアブランドアンバサダー
日本の素材と和の味わいを活かしたカクテルが高く評価され、5年の構想の末「The Japanese Bitters」を発表。JCC AGENTを立ち上げ、現在では純国産ビターズを本格的に製造し、世界に展開している。

   

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