BAR TIMES

2017.07.12 Wed

たまさぶろのBAR遊記トランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワー・シカゴのBAR体験は
意外なほどシック

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

ほぼ20年ぶりのシカゴ滞在にあたり、宿泊先としてアレンジされたのが、なんと「トランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワー・シカゴ」。ニューヨークに長く住んでいた者として、「トランプ・タワー」と聞けば、安倍首相がトランプ大統領を訪れたことでも話題になったマンハッタン五番街に位置する高層ビルだ。1983年に完成したこちらのビルはまさに金ぴか、トランプ大統領の成金趣味の象徴のように語られるケースが多い。ニューヨークを訪れたことがある方なら「ほほお、聞きしに勝る金ぴか」という感想を持ったことだろう。

大統領については弊著「My Lost New York」にも記し、大統領就任時にもYahoo!にて、ひと記事公開しているゆえ、「これも何かの縁…」と考え、滞在を愉しむことにしよう。

玄関口であるシカゴ・オヘア国際空港からリムジンに揺られ、到着したホテルのエントランスは、「トランプ・タワー」とはまったく異なり、ブラックを基調としたシックな雰囲気。大統領の乱暴な発言とは雲泥の差(当たり前か…)、出迎えてくれたホテルのスタッフも非常にフレンドリーで拍子抜けするほど。「トランプ」という名称は、ブランドとしての冠に過ぎないと肌身に感じる。

このタワーは、シカゴの設計事務所スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル (SOM) が、エイドリアン・スミスを主任設計士にすえデザイン。外観を眺め「どうも似ている」と思ったら、世界一の高層ビル、ドバイのバージ・カリファ(206階建て、828.9メートル)とまったく同じコンビが手掛けている。


シカゴ川から見たトランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワー・シカゴ


同一設計士による世界一の超高層ビル、ドバイのバージ・カリファ
2001年当時、現大統領はこの地に世界一の高層ビル建築を構想。しかし、同年9月11日に起こった「米同時多発テロ」事件のため、予算などを含め下方修正を余儀なくされたという逸話も。結局、シカゴのビルは92階建て、高さ425メートルに落ち着いた。それでも2013年、ニューヨークに登場した新ワールド・トレード・センター(1ワールド・トレード・センター、541.3メートル)、および同じくシカゴにあるウィリス・タワー(かつてのシアーズ・タワー、527.3メートル、こちらも設計事務所はSOM)に次ぎアメリカで三番目に高いビルとなっている。

本タワーの完成が2009年、バージ・カリファの完成が2010年という事実を振り返ると、もし大統領の計画が完遂されていたら、シカゴとドバイに双子のような世界一ビルが生まれていたのだろうか…。ちょっとばかり興味深い。

2011年公開の映画『トランスフォーマー ダークサイド・ムーン(Transformers: Dark of the Moon)』(しかし、原題との微妙な意味の差は、なんなんだ)では、シャイア・ラブーフ演じる主人公の恋人役ロージー・ハンティントン=ホワイトリーの、さらに上司が、このタワーに住んでいる設定。同作では、シカゴの街並みがめちゃくちゃにされるのだが、シカゴの街がよくわかるので、足を運ばれる方は一見のほどを。


意外なほど落ち着いたフロント・デスクとロビー
さて、タワーに足を踏み入れるとフロントデスクも華美さは皆無。むしろ「小ぢんまりとした」という形容のほうが似合う。チェックインした部屋も非常に落ち着いた色彩でまとめられており、他のハイクラスホテルに勝るとも劣らないシックで充実した設備だった。

調べてみると、「トランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワー」はニューヨーク、ドバイ、ホノルルなど全世界で8つほど展開されているグローバル・ブランドであり、嫌味のある金ぴか主義では、顧客の支持を集めるわけにもいかないだろう。ビジネスはビジネスである。

部屋は非常に広々としており、私の部屋はもちろんスイートなどではないが、東京の3LDKほどの広さはあろうか。あとで訊ねると、部屋の平均床面積はシカゴのホテルで一番だとのこと。ちょっとびっくりしたのはバスルームの鏡だ。「なぜこんなところにリモコンが…」とスイッチを押すと鏡の中に映像が…。つまり鏡にテレビ・スクリーンが内蔵されており、髭を剃りながらでも化粧をしながらでも、テレビ鑑賞ができるからくりになっている。ちょっとした近未来感にちょっと驚く。


ブラックを基調としたシックな室内

近未来感あふれるバスルームのテレビ


イヴァンカ氏のこだわりというシャンデリア
BAR評論家にとってホテル宿泊の愉しみは、もちろんBAR。このホテルの16階には「シックスティーン」というミシュランで☆を獲得しているレストランがあり、ここのテラスラウンジがシカゴ川を望む絶景なんだそうだ。そこでさっそく足を運ぶのだが、なにしろ寒さ厳しい「ウインディ・シティ」と呼ばれるシカゴ、私が訪れた4月の時点では、季節的にこのテラスラウンジは営業しておらず、残念なことにレストランで食事を愉しむのみとなった。

宿泊客でなくとも、こちらのテラスは使用可能。今の季節にシカゴを訪れる方はぜひ足を運ぶと酔いだろう。「シックスティーン」のフロア中央には、豪奢なシャンデリアがかかっており、これが中々立派。かなり印象的だったのでスタッフに「あれは?」と訊ねると、今をときめくイヴァンカ・トランプ大統領補佐官こだわりのシャンデリアなのだとか…。父よりも娘のほうが、どうも趣味がよろしいようで…。

気を取り直し、フロントデスクのフロアから階段を上った位置にあるメインバー「リバー(Re Bar)」の扉を開ける。こちらも窓際からシカゴ川を望むことができる高級ラウンジ&バー。店名はおそらく街の象徴でもあるシカゴ川「リバー(River)」にかけての命名だろう。ブルーのライティングが基調となっており、ソリッドでクールな大人の雰囲気を演出している。


ブルーのライティングが印象的なバックバー

アメリカのBARはお洒落だろうが、高級だろうが、客が思い思いに大声で会話していることが多く、その喧騒のせいでオーダーを通すのにもひと苦労…というケースが多い。しかし、こちらの一軒は音の吸収を計算に入れているのか、厚手のカーペットを敷き、カーテンを備えるなど音が響かないように感じ取れる。それなりの混雑具合ではあったが立ち飲み客はおらず、ひとり客でものんびりとグラスを傾けることができた。

麗しきバーテンダーが切り盛りするカウンターには、私を含め男性のひとり客が4人ほど。アメリカのBARはもちろんチップ制。そのおかげでバーテンダーも客あしらいがよく、クール・ビューティで冷たい印象のバーテンダーではあるが、目配りも気配りもあり、温かく歓迎を受けた気分だった。

ジントニックをオーダーすると「ジンは何になさいますか? 特に指定がなければゴードンですが…」という。けっこうな混雑なので、「ハウスジンで構わない」と答える。日本のように空手チョップでも砕けないようなかっちりした氷ではないので、ちょっと緩めなジントニックではあるが、すでに少々飲み過ぎかもしれないという私にとっては、このゆるさはちょうど酔い。

続いてオールドファッションドをオーダーすると、アメリカのバーにしては珍しく、オレンジピールのオルナメントが、いかした形で添えられていた。勝手ながら、日本の丁寧なバーテンディングが世界へと広がっているのか…と考える。私がニューヨークに住んでいた20年近く前、どんな高級ホテルでも営業中にこんな洒落た飾りのついたカクテルは出てこなかった。


クール・ビューティな麗しきバーテンダー


ちょっぴりいかしたオレンジのピールが添えられたオールドファッションド
ちなみにこちらのメインバーのインテリアも、基本コンセプトはイヴァンカ氏によるものとのこと。自らのファッション・ブランドを抱えるだけに、単に成金趣味として一刀両断されてしまう父のセンスとは、かなり隔たりがあるようだ。「現在はホワイトハウスに出入りするようになったので、ホテルの経営からは手を引いております」と麗しきバーテンダーから聞き出すものの、すべてにおいて派手さのない落ち着いた統一感には、好感を抱かざるを得ない。

ふむ「トランプ」という名が付くホテルながら、想像以上に快適。次回訪れる機会があれば、ぜひ16階のテラスに出て、シャンパンで喉を潤してみたい。

トランプ大統領の政権運営も、このBARやホテルほどにシックであって欲しいものだ。

トランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワー・シカゴ
401 N Wabash Ave,
Chicago, IL 60611
phone: 1- 312-588-8000


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材とした新作エッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在』、好評発売中。
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