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バーをこよなく愛すバーファンのための WEB マガジン

2019.06.17 Mon

「成田 一徹 to the BAR 」in BAR TIMES 第五回
十三トリス〈大阪〉

Office Ittetsu & BAR TIMES

バーを愛した切り絵作家の故・成田一徹さんの著作権を管理されている「Office Ittetsu」と荒川英二氏(バーUK)のご協力のもと、成田さんが遺された作品の一部を「成田 一徹 to the BAR 」 in BAR TIMES としてご紹介させていただけることになりました。成田さんが切り描いたバーという世界の魅力に触れてください。


第五回 十三トリス〈大阪〉1993年

ウナギの寝床のように細長い店内を、一徹はしばしば切り絵にした。なかでもこの角度からの構図が好きだったのか複数回切っている。東側と西側の2ヵ所に出入口があり、どちらからでも客が出入りできるという店の構造は、ウナギの寝床の狭さを感じさせず、かえって居心地が良かった。しかしこの切り絵の光景も、残念ながら2014年3月の火事で失われてしまった。
(神戸新聞総合出版センター「NARITA ITTETSU to the BAR」より転載)
※火事で焼失後、「十三トリス」は北新地店をオープンし、2016年10月には十三に本店を復活、再開。現在どちらの店も営業を行っている。


 初めて訪ねる酒場。ようやく探し当てても、扉の前で一瞬、躊躇する店もあれば、通りすがりの路地の奥から手招きして誘っているようなところもある。
 二十年ほど前に訪ねた京都のとあるバーの扉は、よそ者を拒絶するかのように重かった。知人の紹介にもかかわらず、最後まで無視され続けた。腹立たしい思いで帰途につき、阪急十三駅で神戸行きの特急を待つ間、ホームの広告看板の隙間から駅前飲食店街を見下ろしていたときだ。斜めに二本のパイプの把手がかかった扉を発見したのは。
「十三トリス」は、明らかに僕を誘っていた。
 入り口は、奥の通り側にもある。先の京都のバーに感じた思い空気の澱みがないのはそのせいだ。ウナギの寝床のような店内を風が吹き抜けている。
 客は、たとえば一方の扉を開けて数杯のTハイ(トリスのハイボール)を飲み、反対の扉から終電めざして駆け出して行く。
 行きずりの酒場は、いまでは梯子酒の仕上げの一軒になっている。
(朝日新聞社「TO THE BAR 日本のBAR 74選」より抜粋)



月刊「清流」より@上田佑勢

成田 一徹 (なりた いってつ)


1949年神戸生まれ。サラリーマン生活のかたわら切り絵に目覚め、88年に上京。切り絵作家として独立した。BARの空間をモチーフにしたモノクロームの切り絵をライフワークとしつつ、新聞、雑誌、書籍を中心に、街の風景や市井に暮らす人々、職人の仕事や生き様など多彩なテーマで作品を発表した。エッセイストとしても、軽妙で味わい深い文書にファンも多く、各地で個展、グループ展を多数開催した。講談社フェーマススクールズ・インストラクターも長くつとめた。2012年10月、脳出血で急逝。

著書に『to the Bar 日本のBAR 74選』 (朝日新聞社)『カウンターの中から』(クリエテ関西)『東京シルエット』(創森社)『The Cigger Story-葉巻をめぐる偉人伝-』 (集英社)『成田一徹の切り絵入門』 (誠文堂新光社)『あの店に会いに行く』(中央公論社)『神戸の残り香』 『新・神戸の残り香』(神戸新聞総合出版センター)『NARITA ITTETSU to the BAR』(神戸新聞総合出版センター)など多数。


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