BAR TIMES

2017.01.12 Thu

たまさぶろのBAR遊記本場スコットランド蒸留所探訪
5.ウイスキーの女神と
ブレンデッド造りに挑戦

たまさぶろ 元CNN 、BAR評論家、エッセイスト

ブレンダー…それはウイスキー・ラヴァーにとって、神にも匹敵する存在である。

日本でも各メーカーのブレンダーが集うイベント「インターナショナル・バー・ショー」などでは、ブレンダーのトークショーが催されたり、ブレンダーの著書を求め、サインをねだるファンも多く参加する。


日本のウイスキー・ブレンダーたちによるトークショー

ブレンデッド・ウイスキー「デュワーズ」のマスター・ブレンダー、ステファニー・マクラウドさんは、同メーカー初の女性マスター・ブレンダー。しかも、デュワーズには創業以来のこの170年で、マクラウドさんを含め、マスター・ブレンダーは7人しかいない。まさにウイスキーの女神のような存在だ。今回、試飲させてもらい腰を抜かした「デュワーズ30年ネプラス・ウルトラ」をブレンドした責任者でもある。


デュワーズ30年ネプラス・ウルトラ
ブレンドしたモルトを再び樽に戻し、3-6ヵ月熟成させるブレンデッド製法は1902年、当時のマスター・ブレンダー A・J・カメロンが、アバフェルディ蒸留所で生み出したとされている。その正統な後継者・マクラウドさんは、デュワーズのシグニチャー・ブレンドを樽に戻し、2年間熟成させている。ちなみに「デュワーズ30年」のPXカスク(極甘口シェリーのペドロ・ヒメネスの熟成に使用した樽のこと)での熟成は、PXの甘さが勝ちすぎないように3か月のみに限定したと言う。ちなみに「極甘口シェリー」という表現は東京・五反田「シェリー・ミュージアム」中瀬航也館長の表現をお借りした。

今回、マクラウドさんが常駐するスコットランドのグラスゴーの工場を訪れる機会を与えられ、なんとマスター・ブレンダーが見守る中、私自身がブレンデッド・ウイスキー造りにチャレンジするという僥倖に恵まれた。

グラスゴーの工場では、原酒となる各種モルト・ウイスキーの熟成から管理、そしてボトル詰めまでが行われており、ブレンデッド・ウイスキー造りの中枢の役割を果たしている。何も蒸留所ばかりが、ウイスキー造りの舞台ではない。


「Sensory Evaluation Facility」室内

工場は、セントラル駅などが集まるグラスゴーの中心地から4キロほど東。プロサッカー選手、中村俊輔が活躍したセルティックFCの本拠地・セルティックパークにほど近い界隈に位置している。「ロンドン通り」という大通りに面した工場は、「モノリス」を寝かしつけたような2階建ての床面積の広い建物で、小さなメーカー・ロゴに気が付かなければ、そこがウイスキー工場だと気づかない者も多いのではなかろうか。


「Preparation Laboratory」

いくつかのセキュリティ・システムの守られたエントランスを乗り越え、二階の受付へ。ほどなく姿を現したマクラウドさんは、ブレンドの責任者とは思えないほどフレンドリーだった。

私にはグラスゴー国際空港からの帰国便まで数時間しか残されていなかった。よって前夜のディナーの話題など、世間話もそこそこに工場内を案内してもらうことに。

最初に案内されたのは、「Sensory Evaluation Facility」。案内された順番は、ウイスキー造り、ブレンドの工程とはまったく別だが、ここでは時系列通りに記して行く。

ここでは集められた原酒のノーズやパレットについて厳密に採点。複数の評価者が、ひとつひとつの原酒について厳密に評価する。いわゆる「テイスティング」と呼ばれるものに近いが、より厳密に評価される。

原酒の色、香り、味、舌触りをEuropean Standard Measure(欧州標準評価)という定められた基準に沿うよう評価を決定する。ここではマシンなどを使用せず、すべて人によって評価が下される。ブレンド造りの根幹を成す作業だ。将来のブレンダーは、このテスターから育つ。


「Analytical Laboratory」の検査マシンのひとつ


ウイスキーの女神の仕事場

「ウイスキーのファッシネイティングな点は、同じ蒸留所からでもキャラクターの異なる原酒が生まれること」とマクラウドさん。それを結婚させるのがブレンダーの役割である。

次に案内されたのが、「Preparation Laboratory」。ここでは、各地から寄せられる原酒たちを、蒸留所ごと、元来の味覚の傾向などにより仕分けし、評価の準備をする一室。寄せられる原酒の種類が多いだけに、もっとも活気があり、もっとも多くの担当が出入りしていた。静まり返った「Sensory Evaluation Facility」とは対照的である。


体験用に並べられたモルトの数々 これを吟味し、自分だけのブレンデッドを造る

最後は「Analytical Laboratory」。ここでは原酒それぞれを科学的に分析する。マクラウドさん曰く、アメリカTVドラマの「CSIシリーズを想像してもらえれば、もっと理解できるかと」とスコットランドらしからぬジョークも。蒸留・熟成の過程でも、もちろん、製品として厳密に管理されてはいるものの、今一度ここでその成分分析がなされる。また出荷する国によっては、食品管理法が異なるので、その規制に抵触しないための予防でもあるという。こうした各種分析により「原酒それぞれの指紋のようなものが科学的に検出される」ということで、いまや常識とも思われるが、ウイスキー造りがいかに科学的に遂行される時代になったかを目の当たりにした。

すべての解説の後、「The Blending Room」に通される。するとデスクの上に500ml程度のウイスキー・ボトルが整然と並べられている。「(ゲスト用特別企画として)さぁ、ここでブレンディングに挑戦してもらいましょう」とのこと。いやぁ、ブラインド・テイスティングに常日頃チャレンジしたり、テイスティング・ノートをいつも書き連ねているモルト・ラヴァーならいざ知らず、「モルトは何でも美味い」派の呑み助としては、かなりハードルの高い挑戦。逡巡するものの、誰に呑ませるわけでもない。やはり、人生すべて経験ということで挑戦する。

テーブル上には50種類ほどのウイスキー…グレーンも含め、モルトが並んでいる。それぞれ列ごとに「グレーン」、「シリアル」、「フローラル」、「フルーティ」、「スモーキー」と味覚の系統に分けて並べられている。自分の造りたいブレンドのキー・モルトを選び、それに彩となるモルトを足し、自分だけのブレンデッド・ウイスキーを作って行く。

実際のブレンダーは、こんな生易しいものではない。デュワーズが管理する「すべての」モルトの中から、キーを見出し、大量生産に耐えうる流通量の多い製品から、限定生産の至福の逸品に至るまで、すべての製品の責任を負う。私のように「呑めばなんでも美味い」という輩からは、到底想像もできない作業だ。

私は無難にグレーンには、Port Dumasをメインとし、North British を隠し味に。やはり、キーモルトにはデュワーズ同様「アバフェルディ」を想定すべきだろうと核に据えながら、Auchroiskもそれに沿うように加えた。他にはタリスカ―、カリラ、ロイヤル・ブラックラ、クライゲラキを加えている。さて、どんなブレンデッドに仕上がったか想像できるだろうか…。

一応、マクラウドさんにもテイスティングしてもらったのだが、完成品については「まあまあね」という感想で、やはり素人が即席でこしらえたものなど、あくまで余興の範囲でしかないのだろう。今回のスコットランド訪問で、一連のガイドを務めてくれた美人に敬意を表し、このブレンドには「KARA」と命名した。

なお、わずかな時間の中、マクラウドさんとランチをともにすることが出来たので、ちょっと質問をぶつけて見た。それと言うのも、日本のブレンダーは常々、ランチなどのメニューを固定していると世に知られている。サントリーの名誉チーフ・ブレンダー、輿水精一さんなどは、テイスティングに正確を期すために、食事や体調管理を徹底。ランチはいつも「天麩羅うどん」と決めていたという逸話は有名だ。

この日、マクラウドさんが食していたのは、サーモン。日本のブレンダーのランチについて話題を向けてみると「それは興味深い」としつつも、マクラウドさん自身および他のデュワーズのブレンダーも、「刺激物は避けるけども…」そこまでランチ・メニューに神経を尖らせてはいないとのこと。

その心を訊ねると「ブレンドで大事なのはノーズ(香り)だと考えています。それと言うのも、ノーズはパレット(舌によるテイスティング)に比べ、ずっと回復が早く、多くのテイスティングをする際、ノーズこそが重要だからです」とのこと。なるほど、確かに私のようなど素人でもテイスティングの会などに招かれると、いくら水を含んでも、どうしても前のウイスキーのテイストが口内に残ってしまい気になっていた。ブレンダーの方などやはり異なるパレットを持っているのだな…などと感心していたのが、「パレットの回復が遅い」点は、マスター・ブレンダーさえもが認識している事実なのだ。

残念ながら、まだマクラウドさんにお会いして以降、まだ日本のブレンダーさんにお会いする機会は設けられていない。しかし、逆に日本のブレンダーさんにも訊ねてみたい設問がもたげて来た。

さて、こうしてスコットランドから持ち帰った、我が家にわずか80mlばかりある「たまさぶろスペシャル・ブレンデッド・ウイスキー:KARA」、いったいいつ開けようかと思案するが、そんな嬉しい機会があるかどうか…。我ながら気がかりである。


たまさぶろスペシャル・ブレンデッド・ウイスキー「KARA」

 


 

たまさぶろ
元CNN 、BAR評論家、エッセイスト
立教大学文学部英米文学科卒。週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。ニューヨーク大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとウェブメディアの融合を成功させる。これまでに訪れたバーは日本だけで1000軒超。2015年6月、女性バーテンダー讃歌・書籍『麗しきバーテンダーたち』上梓。米同時多発テロ事件以前のニューヨークを題材とした新作エッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在』、好評発売中。
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