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2016.08.5 Fri

トップバーテンダーが感じた「パーフェクト・カクテル」渡邉 匠さんに聞く

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441ページの圧倒的なボリュームで最先端カクテルの作成ノウハウが紹介されている「パーフェクト・カクテル 〜ニューヨーク最先端バーのスーパーテクニック〜」。この学術書のように論理的で美術書のように美しいカクテルの専門書をトップバーテンダーはどのように読み解くのか。BAR TIMES編集部は日本を代表する5人のバーテンダーに本書についての率直な感想をお聞きすることにしました。

最初に原稿をお寄せいただいたのは奈良の会員制バー、The Sailing Barのヘッドバーテンダー 渡邉 匠さん。今、注目を集める「奈良」、そして関西のバーシーンを熱くしている中心的な存在です。




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BAR TIMES より原稿の依頼があった際、もっとも興味のあるテーマについて感想を述べてほしいというリクエストがあったので、私は、第2部トラディショナル・カクテル、第3章の「氷と氷を入れた酒と基本法則」についての感想を述べることにします。

私がバーテンダーになりたての頃、先輩に教えてもらった「氷」という存在には、当時の未熟な私には理解できていなかったカクテルとの基本法則がありました。あれから時を経て本書に出会い、私なりに納得のいく、いくつかの結論に辿り着きました。

例えば、急速に凍結された白く濁った氷はカクテルづくりに適さないと改めて認識しました。ろ過装置等の浄化システムとクリンベル・フリーザーを使い凍結する前に残っている液体を捨てれば不純物を取り除くことが出来ます。しかし一般的な冷凍庫などで、全方向から急速に凍結した氷は、小さな結晶が成長するときに不純物やさまざまな汚れを閉じ込めたままになり白く濁ります。さらに逃げられなかった空気も含むので亀裂が入りやすくなり、調製用の氷としてはカクテルの価値をさげてしまうでしょう。

冷やす時間と方向の影響で不純物が閉じ込められるというは、理屈を示されれば納得です。

また本書では、カクテルをつくるときの冷却と希釈の関係を多くの実験結果から解き明かし、いくつかの提案をしています。その一つが、「冷却された温度を設定することで面白い結果になるだろう」という記述です。もしかするとこの一文が、私の長年の課題を解決してくれるかもしれません。バーテンダーは、日々の営業の中で繰り返しカクテルをつくりながら、品質の安定と高い精度を求め続けています。温度管理ができるバースプーンやミキシンググラスが開発できれば、その精度も高められるでしょう。

さらに代表的な技法であるミキシングを「氷」の希釈と冷却の関係から考察しています。氷の表面の融けた水が早く氷からはなれること、氷と接触する液体が次々に入れ替わることで熱を奪われることなどを熱力学で証明しており、氷の種類による違いも示されています。最も面白いのは注ぎ残したカクテルの残量まで記載していることです。クラッシュアイスを使った場合、製氷機の氷を使った場合、ブロックアイスを使った場合の残量を数値化しています。さらに、その残量を一定に保つヒントがこの本には記載されています。先輩に教わった注ぎ方が、実はカクテルの残量を最小限にとどめる最適な注ぎ方だったことを本書で再確認できました。

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0726-044-Edit氷の章だけでも26ページ、写真26点で徹底解説
0726-059-Edit様々な実験から真実を導き出します

私たちバーテンダーは氷を使いカクテルをつくるとき、カクテルの冷却速度、冷却方法、温度、希釈量など多角的に考察しますが、はたして美味しいカクテルと材料の一つでもある氷との関係をどこまで、細かく分析し、深く追求できるでしょうか。デイヴ・アーノルド氏の大胆でありながら物理的な切り口、仮説と結果、科学的な実験の数値化。これらの実験データは、私たちが、氷の厳密なカクテルへの影響を考えるのに十分に役に立ちます。

読み終わると早速おいしいマティーニやマンハッタンをつくりたくなりました。


渡邉 匠
The Sailing Bar / 奈良
2010年 Diageo World Class Japan 優勝 Global 9位
2013年 Casa Noble Cocktail Competition Japan 優勝
2013年 ABSOLUTE ELYX Cocktail Competition グランプリ受賞同年オフス大会1位

関西から世界へ多くのバーテンダーが輩出されるきっかけをつくった先駆者




パーフェクト・カクテル

ニューヨークでハイテク・バーを営むカリスマ・バーテンダーが、最先端のカクテル作成ノウハウを惜しみなく公開した「パーフェクト・カクテル 〜ニューヨーク最先端バーのスーパーテクニック〜」が楽工社より発刊されました。ページ数/441P、レシピ/120点、カラー写真/450点のボリューム。

単行本: 441ページ / 著者:デイブ・アーノルド / 日本語版監修者:岸 久 / 翻訳者:二階堂 行彦 / 出版社: 楽工社 / 発売日: 2016年6月

詳しくはこちらから

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